つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312TH.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

平田 徹 山梨大学教育人間科学部助教授

(下田センター元助手、海洋生態学)

 初期の研究タイトルは「海中固着生物実験群集の群集遷移」です。 20 cm四方のコンクリート基板を海に沈め、時間の経過で固着生物 群集がどう変わっていくか、すなわち遷移を調べるというのが私の 研究テーマでした。遷移というのは時間がかかります。極相、クライ マックスに達するのに、当時、何年かかるか分からない。今から見る と、10年単位の話なのですけれども。結局、3年程度でコンクリート 板にできる生物群集は極相に達するというのが、一つの大きな研究成果であったと思います。

 生態学的な仕事をする上で、やはり実際に海の中に入るということは非常に重要なことです。当時、なかなか学生が希望してすぐに潜れるわけではなく、当時のホヤの発生学の渡邊先生、藻類の生理生態学の横浜先生、技官の植田さんに御願いし、理解を得ることができました。私は学位の取得後、研究生であったのですが、学生が潜れる形式を作っていただいて、それ以降、学生の方々も潜水を伴う研究の展開が可能になりました。

 その後の研究には、横浜先生、西脇先生(筑波大医療技術短大)、技官諸氏との共同研究である大型褐藻植物カジメの移植と成長の研究、腹足類イシマキガイの生態学的研究もありますが、センター関係の研究者の方々との共同研究である流れ藻生物群集の群集構造の解析に至る研究があります。大きな流れ藻にはいろいろな生き物が棲み込んでおり、その群集にはどこかに高い多様度が維持される安定なレベルがあるはずで、それを知りたいというのが研究動機でした。

 もう1つ、海中に転がっている石を対象にした転石固着生物群集の研究があります。これも群集の多様度と安定性に関わる研究です。さらに、今年度から共同研究として始めつつあるアマモ場生物群集の研究があります。いずれも群集構造の多様度と安定レベルの記載を目標にしてきましたが、今後は、多様度と安定性のメカニズムが突き詰められれば、これらの研究は非常にいい研究に発展するのです。

 センターを常々利用させていただいて来ましたが、センターを通じて諸分野の様々な方と広く知り合いになれました。これは私にとり大きな財産です。今日までのことを振り返りますと、どうしても、下田なくして自身はあり得ません。今後のセンターの発展を期待しますが、センターから発信される研究成果が、日本にとどまらずに、世界に広く知られることが一番だと思っています。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類