つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312MA.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

浅島 誠 東京大学総合文化研究科教授

(日本動物学会長、下田同窓生、発生生物学)

 研究ということの最初にその「いろは」を教えてもらったのが渡邊浩 先生でした。渡邊先生は既にホヤのベテランで、なおかつ高名な先生であ りましたけれども、最初に僕に「キクイタボヤを捕ってこい、海の中から 捕ってこい」と言われたわけです。それで、あちらこちらいろいろ探した わけですけれども、どうしてもキクイタボヤは、自然の中からは捕ること ができなかったのです。そうこうしているうちに1週間近くたったのですけれども、ようやく鍋田湾の先にある、「のろし」の先のところで、初めて自然のキクイタボヤを捕ってきたというところから、自分の生物学が本当に始まったというように思っています。

 ですから下田の臨海実験所というのは、僕にとっては、研究あるいはこのような学問への、ある面で本当の意味での出発点の場所であるし。そして、そこから渡邊先生を通していろいろなことを学んだことが、自分の今の研究の基礎になっているというように思っています。

新島を目前にする鍋田湾とキクイタボヤが生息する狼煙崎(右の半島)

 地球上には非常にたくさんの生物がいるわけです。1,000万種ともいわれるわけですけれども。その1,000万種の生物というものを考えたときに、僕は21世紀の生物学というのは、生物の多様性ということが重要だろうと思うのです。それも、その鍋田、あるいは下田の臨海実験所というのは、まさにそのような意味でいうと生物の宝庫でありまして、そのような環境の中で学問できるということは、僕は非常に重要なことではないかと思うわけです。

 生物というのは、いろいろな面白いことをたくさん見せてくれるのです。そのような面白い生物の現象というものを、われわれはもっと知っていくことが下田にはできるわけですから。多くの人たちに科学を見せる場、生命の奥深さを見せる場をこれから提供できれば、そして、それは人類の共通の財産であるというようなことを、僕は考えていただければいいと思うわけです。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類