つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: 150-151.

特集:入学

教職 World

石川 香 (筑波大学 生物学類4年)

新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます!筑波大学での新しい生活は、いかがでしょうか?大学に入って初めて一人暮らしを経験した人も多いでしょう。五月蝿いほどのサークルの勧誘もありましたね。授業も高校までと違って、履修申請とかいうのをしなきゃいけないし……と、新しい経験がたくさんですね。もしかすると、履修に際して教職についてちょっと悩んでいる人もいるかもしれません。「教員免許って、はたして必要だろうか」「教職をとると、どれくらい大変なんだろう」「授業は難しいんだろうか」「一年の時には、どの科目をとればいいんだろう」そんな疑問にお答えします!

 まずは「教員免許は必要か?」という疑問について。

 勿論、将来教員を目指している人には必ず必要です。しかし、現段階では採用は非常に厳しい状態で、免許を取ったからといって教員への道が保障される訳ではないことは、よく承知しておいて下さい。本気で教員を目指している人の場合、卒業後に筑波大学の教育研究科に進む人が多いです。採用は、非常勤講師の経験があると有利なので、教育研究科で理科教育を学びながら近隣の学校で非常勤講師をして、経験を積みつつ修士の学位を取り、本採用を目指すのです。  そこまで本気で教員になりたいとは考えていないけど、教員免許という資格に興味があるという人も結構多いと思います。そういった人は、教職を取ることによって生じるリスク(時間的な制約や取らなければいけない単位の多さなど)と、教員免許という資格の魅力とを計りにかけて、教職をとるべきかどうか決めなければいけません。

 そこで、「教職はどれくらい大変なのか」という話に移ります。

 もし在学中に教職を取らずに卒業して、卒業後に「やっぱり教員免許が欲しい」と思った場合には「科目等履修生」という身分で授業を受けることになります。しかし科目等履修生は既に卒業してしまっているので、在学中の学費とは別に一単位当たり1万円以上のお金を払って授業を履修することになります。教職科目の単位は30単位以上あるので、それらを卒業後に全て取るのは金銭的にも、時間的にもかなり大変です。ですから、教職は取るならやはり在学中に取ることが望ましいと思われます。

 だからといって、在学中に教職を取るのが楽なわけではありません。30単位以上ある教職科目のほとんどは卒業するための単位として数えることができません。つまり、普通の人が124単位で済むところを、最低150単位くらい取らないといけないのです(その分テストやレポートも増えることになります)。場合によっては、専門の実験や授業の時間を犠牲にして教職の授業に出なければいけないこともあります。教職は単位数が多く、時間割の中だけでは消化し切れないために「集中講義」の形で行われるものも多いです。つまり、休日出勤(?)です。また、授業とは別に「介護等体験」と「教育実習」の2つを行う必要があります。介護等体験は近隣の福祉施設などに5日間、筑波大学附属の養護・盲・聾学校のいずれか一つに2日間の計7日間という日程で行われます。この期間が休み中に当たれば別に問題はないですが(休みが減るという問題はありますが)、授業日に当たった場合は、大学の授業を休むことになります。教育実習は、私の代から3週間になりました。これら2つの実習は、年度の初めに事前講習会を受けないと参加できません。

 なお、たまに「高校の免許だけ取りたい」といった人がいますが、これはあまりお勧めできません。なぜなら、今文部科学省の動きとして公立で中・高一貫校を作っていこうという流れがあるのです。公立ですから、普通の県立高校などと同じように教員が異動します。つまり、それまでは高校の先生だった人がある年から中・高一貫校の中学部の先生になることもあり得るのです。いつか教員になろうと決心して採用試験を受けたとき、中学或いは高校の片方の免許しかない人は、こうした異動には対応できないので、それだけで非常に不利なのです。確かに、中学の免許「だけ」を取るなら専門科目の単位数が少なくて済みますし、高校の免許「だけ」なら介護体験や道徳教育などを履修する必要がないので両方の免許を取るよりははるかに楽です。しかし、採用まで見据えて教職を取るのなら、中・高両方取らないと非常に厳しいと言えるでしょう。  このように、教職は想像以上に多くの時間を費やさないと取ることができません。決して楽とは言えませんが、その分やりがいはある、と言えるかもしれません。

 では次に「教職の授業は難しいのか」という点について。

 はっきり言って、難しくはありません。一つ一つの単位を取ることはそんなに難しくないのですが、レポートの提出やテストが重なったりすると、結構痛い目にあったりしますので注意が必要です。

 最後に「一年のうちに取るべき授業」についてです。

 教職の授業は、標準履修年次が割と厳密に決まっているものが多いのですが、標準履修年次が2年となっている「教育基礎学」については、取れれば1年のうちに取っておくことをお勧めします(ただし、最初の授業の時に担当の先生に「1年ですけど取らせてください」と挨拶をしておくことが望ましいです)。この科目が開設されている木曜の2限には、生物学類の専門科目も複数開設されています。2年以降、自分が取りたい専門科目が取れなくなるのは残念なので、1年のうちに取っておいた方がお得なのです。

 1年で取っておくべきもう一つの科目は「教育心理学」です。この科目は、卒業に必要な単位の中の「自由科目」として認定されますので、教職を取る・取らないに関わらず取っておくことをお勧めします。  それから、これは教職科目ではないのですが(「教科に関する科目」に相当します)、理科の教員免許を取るには生物だけでなく物理・化学・地学の知識も持っていなければいけません。そのため、生物学類生を対象に開設されている物理学・化学・地球科学Cとそれらの実験全てを履修している必要があります。

 そして、これも教職科目ではないのですが、教員免許を取るには「哲学または倫理学・宗教学に関する科目」というのも履修しなければなりません。これに相当する科目は複数あるのですが、自分の時間割と照らし合わせてみて都合のよいものを選びましょう。因みに、私は火曜日の3限に開設されていた「哲学通論」という授業を取っていたのですが、今年の開設授業科目一覧ではその授業がなくなっていました。同じ火曜日の3限では、人文学類開設の「哲学」や「科学哲学」などがあるようです。

 また「教職基礎実践」という科目があります。これは夏休み中に3日程度、筑波大学の附属の学校に授業を参観しに行くものです。これは教員免許を取るために必修ではないのですが、必要な単位の中に組み入れることができます。

 2年時以降からは本格的に教職科目が入ってくるので、1年のうちにこうした教職に関連する周辺科目を取っておくと、比較的無理せずに履修できます。

 一応1年次で必要と思われる情報を一通り書き連ねてみましたが、2年次以降の教職科目履修の流れや各科目の特徴など、ここでは述べていないことも多くあります。また、何らかの理由によって1年で取っておきたい科目が取れないなど、個人個人によって状況も変わってくると思います。また、具体的な質問などもあるかもしれません。そういった内容については、実際に会ってお話したほうが解り易いと思うので、学類長を通じて、個人的に連絡してください。

Communicated by Jun-Ichi Hayashi, Received April 29, 2003.

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