つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: 162-163.

理科教育の現場から

高校教育の現場から

権田 律子 (茨城県立水戸第二高等学校 理科)

 私は生物学類を平成8年3月に卒業後、茨城県立総和高校で常勤講師を2年務めた後、教諭となった。その後、茨城県立鹿島灘高校で4年間勤務した後、現在の水戸二高に移り今年で2年目になる。実は水戸二高は我が母校であり、自分が高校生だった時の恩師と共に勤務することになろうとは当時予想もできなかった。

 本校は女子ばかり1学年8クラスの大規模高校である。また、入学してくる生徒のほとんどが大学進学を目指しており、授業の進度も速い。このような環境の中で、生物教育をつかさどる私が工夫していることをいくつか紹介したい。

(1) 実験をなるべく多く取り入れる。
(2) 発言する機会を多く設ける。
(3) 課題について自分の頭で考え、文章表現させる。

 (1)については、実験や観察を通してナマの生き物に触れることによって、生徒が生物に興味を持つようになることを期待しているからである。昨年度行った主な実験は、頬の内側の細胞観察、ユキノシタの原形質分離、レバーを使ったカタラーゼ反応、酵母のアルコール発酵、アカムシの唾液腺染色体の観察、カエルの解剖、ブタの眼球の解剖、ウニの人工授精・発生、カキの心拍数の測定など。なるべく身近な材料を使い、生徒が実験に親近感を持てるように心がけた。

 (2)については、生徒が授業に緊張感を持って取り組めるよう、多くの生徒を指名し、発言させるようにした。教室の授業ではどうして板書が多くなり、生徒は教師の説明を聞き、黒板を写すという受身の姿勢になりやすい。質問を投げかけ、答えさせることにより、少しでも生徒が能動的に授業に参加できるようにしている。

 (3)については、教科書に出てくる記述式の設問に対して、例えば100字以内で実際に書かせている。前は何人かの生徒を指名し、口頭で答えさせ、その後黒板に模範解答を書いていた。しかしそれでは、自分の頭で考え、文章にしてみる能力が育たないと思った。授業の中の限られた時間の中で、自分の言葉で表現させ提出させることにより、科学的・論理的思考能力を高めたいと考えている。大学受験での小論文対策にもつながるはずである。

授業風景

 本校の多くの生徒が筑波大学入学を希望しており、理系クラスの中には生物学類を目指す生徒も多くいる。このような状況下で、大学と高校の連携のために筑波大学生物学類に求めたいことをいくつかあげたい。第一に気軽に参加できるオープンキャンパスを企画してほしい。高校1、2年の早い段階で大学の雰囲気を感じてもらい、進路選択の一助としたい。第二に大学の最先端の設備や機器、そして多彩な生物教材を使用した公開実験講座や高校への出前授業・実験をやって頂きたい。最先端の科学に触れさせ、広く自然科学の分野に興味・関心を持つようにさせたい。第三に、晴れて生物学類に入学できた場合には、1、2年生で履修する「基礎生物学実験」や「野外実習(下田、菅平)」を大切にする心構えを学生により一層持たせて欲しい。一般に進学校では授業の進度が速く、なかなか実験をできない学校も多いと聞く。教科書では勉強していても、実際に自分の手を動かして生命のすばらしさを体感し感動した経験を持つ学生は少ないのではないかと思う。私も自分が高校生だった頃あまり実験をやった記憶がないが、大学で「基礎生物学実験」や「野外実習」を履修した経験が現在とても役に立っている

 最後に、教員志望の学生さんたちに言葉を贈りたいと思う。学校には様々な特徴、悩み、家庭環境を持った学生達がいる。授業や部活の指導の他に、学生の心のケアも色々なケースに応じてやっていかなければいけない。そんな時、役に立つのはその人の「人間性の幅の広さ」と「愛のある教育姿勢」である。ぜひ、大学生というゆとりのある時期に様々な世界の空気を吸い、自らの人間性を磨いて欲しい。そして愛のある魅力ある教師を目指して頑張って欲しい。

Communicated by Osamu Numata, Received April 30

©2003 筑波大学生物学類