つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200306MM.

第二回筑波大学技術発表会に参加して

路川 宗夫 (筑波大学 生命・情報等教育研究支援室(生物学類))

 この技術発表会に参加するにあたって、準備のための活動の開始はちょうど一年前に遡る。筑波大学遺伝子実験センターの鎌田 博先生から、遺伝子実験センターを取り囲む周辺環境の野生植物の調査の依頼を受けたことに端を発している。どうせ調査をするなら、筑波大学構内全域を対象としたフロラ調査をしてみようと、生物学類学生有志に呼び掛け、調査活動を開始した。生物学類内に、学内フロラ調査団という組織を立ち上げ、生物学類の実験のない水曜日の午後などに、定期的に採集活動を展開していった。活動は次第に学園祭で中間発表をしようという方向に進んだ。学園祭一ヶ月前あたりから企画作りに取り組み、学園祭での企画発表はどうにか形になった。企画のタイトルは「学内フローラ調査;学内植物相の変遷に関する報告等」とした。プレゼンテーションは模造紙にマジックインクで文章を手書きしたり、写真を貼り付けたり、標本を展示したりと、手づくりのものが大半をしめた。学内の植物相以外にも、昆虫ファウナ(深澤圭太君と福井眞生子さん)や軟体動物ファウナ(芳賀拓真君)など、筑波大学構内の豊かな生物相を展望できる、いくぶん学術味のあるユニークな企画としてまとまった。生物学類生の今井清太君を企画代表として、大勢の生物学類生達が協力しあって完成させた。生物学類長の林 純一先生や、生物科学研究科長の沼田 治先生にも見てもらった。

 学園祭終了後も調査の不完全さを認識していたため、調査は継続して進めていた。昨年の暮れあたりだったか、林学類長から「来年3月に技術発表会があるから、ぜひ学内フロラで参加してみてはどうか。それによって、生物学類の活動をアピールしてほしい」との強い要望があった。集積した1500点ほどの植物標本を今井君達と整理して、何度も植物目録の追加や修正を繰り返し行った。筆者は20年前に筑波大学構内の植物相(大悟法ほか1982)のまとめに関わった経験があるので、発表のタイトルは「学内フロラの再調査、20年前と現在のフロラの比較を試みる」とした。植物目録がおおまかにできあがると、発表の文章が簡単にまとまった。内容にはいささか自信があると思いこんでいた。しかし、いざ発表会が近づいてきて、生物科学系長の井上 勲先生に見てもらうと「これではだめ」と、ポスターを井上先生自らパソコンで作り直してくれた。学会発表の現実的な厳しさを思い知らされた。発表者は筆者を筆頭に、調査活動で主力として働いた生物学類生の今井清太君、野水美奈さん、森藤倫子さん達と連名とした。

 発表会当日は、ポスター展示会場にずっと張りついていたが、下田臨海実験センターの土屋泰孝技術専門職員の「日本南極越冬隊に参加して」と、加速器センター長の古屋興平先生の「技官に支えられた私の研究」という特別講演だけを拝聴した。それぞれの分野での技官の活動を知ることができて感動した。他の口頭発表は聴かなかった。物理学、工学関係の発表は聴いてもさっぱりわからないし、興味がわかなかったからだ。ポスター展示も物理、工学、医学関係の内容のものが多くて、生物学類の我々の展示は場をまちがえたのではないかという感もしないではなかった。「参加することに意義がある」と言ってくれた林学類長の言葉を糧として、未熟な調査の中間発表を行った経緯を述べてみた。

 我々が展示したポスターはボードに貼りつけて、現在生物学類長室の入り口のそばにかざってある。毎日見る度に、自分達の調査の未熟さをかみしめている。あと2?3年調査を継続してみないと、学問的に意義のある学内フロラの精密な比較はできそうもない。

 この発表に際して、フロラ調査の機会を与えて下さった鎌田先生、我々の調査活動を理解して自由にやらせてくれた林学類長、植物系統分類学実験IIという専門実験の中で標本を集積する機会を組み入れたり、ポスター作成で全面的に支援して下さった井上学系長、そのほか標本作り、標本整理などで多くの生物学類生達に協力いただいた。この方々にお礼を申し上げたい。

Communicated by Yoshihiro Shiraiwa, Received May 26, 2003.

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