つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2004) 3: TJB200403NK1.

留学

マンチェスター大学の位置付け及び生物学部の概要

季村奈緒子(生物学類3年、マンチェスター大学留学中)

Guardian Newspaper Limited 2003, EducationGuardian.co.uk© による大学の総合ランキング(上位20校);

  1. Cambridge
  2. Oxford
  3. London School of Economics
  4. School of Oriental & African Studies
  5. University College London
  6. York
  7. Imperial College
  8. Nottingham
  9. Warwick
  10. King's College London
  11. Manchester
  12. East Anglia
  13. St. Andrews
  14. Birmingham
  15. Bristol
  16. Glasgow
  17. Essex
  18. Lancaster
  19. Southampton
  20. Leeds

同じGuardianによる分野別のランキングでは;

  • Physical Biosciences: 21.Manchester
  • Medicine: 1.Manchester
  • Dentistry: 1.Manchester
  • Pharmacology: 1.Manchester
  • Business and Management Studies: 1.Manchester, 9.UMIST
  • Chemical Engineering: 2.UMIST
  • Theology: 5.Mancester

Times Newspaper Ltd.による2001年のランキングでは;

  • 総合: 15.Manchester
  • Molecular Biosciences: 16.Manchester
  • Organismal Biosciences: 3.UMIST, 13.Manchester
  • Anatomy and Physiology: 5.Manchester
  • Medicine: 6.Manchester

 上記から伺えるようにマンチェスター大学の医学部は国内トップクラスの評価を受けている。歯学、薬学も同様である。来期のUMISTとの合併によって工学系は更に力をつけ、経営学においては、マンチェスターもUMISTもともに高く評価されている。マンチェスター大学は文系と理系の分野がそれぞれ充実しており、様々の施設・設備も手伝って国内一の応募者数を誇る。学生層では特に人気の高い大学のようである。

 私から見た生物学部は、研究者層は言うまでもなく、カリキュラム、学生揃って一流である。カリキュラムは細かく分かれている上に、一年の必修科目には全て実験が併設されている点は実践的に学ぶのには非常に有効と感じている。学生自身の身の回りにおいて応用の効く形で多くの実験が組まれており、例えば血液型の判定はお互いの血液を採取するところから始まり、薬学の実験では実際に薬を服用して自身でその効果の作用を体験する。タンパク質の解析では数種類の魚から試料を用意し、電気泳動の結果が出るまでの段取りを全て自分たちで行う。実験には手引きが配られ、そこに実験方法と確認問題が書かれている。毎回レポートを提出するのではなく、この実験毎の数問に答え、内容の理解を確かめる。講義は全て50分程度であり、週に大体2こまのペースで行われている。パワーポイントの講義がほとんどであり、ウェブ上に講義内容及びその他の参考資料も公開されているのが便利である。一年次の試験は主に四択形式のものがほとんどのようであるが、二年次以降からの論述試験に移る前に知識の基盤が出来ているかを確認するためにそうしていると思われる。講義自体は医学、薬学、心理学や他の科学分野との合同授業が多く、学際的に学べる環境が与えられているのが分かる。

 Tutorialと呼ばれるクラスセミナーに当たる授業では主に、プレゼンテーションの練習が行われる。数人のグループに分かれ、決められたテーマについてパワーポイントなりポスターなりの方法を選んで発表する。Biotechnologyが付く二つの専攻コースや、他に細かく分かれている専攻からも推察できるように、マンチェスター大学の生物学部は学んだ生物学を活用できることに力を注いでいる様子が伺える。

 生物学部では医学に関連した分野は常に注目を浴びているが、敢えて注目の研究分野を挙げるのなら、biochemistryであろう。他にも最近の流行に乗り、neuroscienceも挙げられる。いくつもある専攻コースから、専門を持たないBiologyのコースを選択する一年生の学生が多いが、2年次となると、Biomedical Sciencesが一つの人気専攻になるようである。他にもPsychology & Neuroscienceという生物学と心理学の融合専攻コースがあり、心理学を生物学的なアプローチから眺める試みである。生物学部からは少し離れるが、国内外では珍しい、Art in Medicineといって解剖学に基づいて図の作製や顔の復元などを専門とする分野もある。

 私が個人的に見てきた学生は、差があるものの全体的に真面目である。しかし、いわゆるガリ勉の学生は少ないのが正直な印象である。例えば、毎晩新聞を隅から隅まで読む知見の広い学生でも、週末に限らず、平日でも夜10時過ぎ頃からクラブに行って踊っては、次の朝はまた講義に出席するという様子はそれほど稀ではない。クラブまで行かないにしても、毎晩のように近くのバーで友達と一緒に一杯するのは学生でも普通のことであり、イギリス国民の日常である。遊びの実態は全てが健全とは言い難いが、自分から赴かない限りは薬物使用などの不謹慎な行為に巻き込まれることはない。週末の昼間はシティセンターまで出かけて行ったり、スーパーに行ったり、スポーツをしたり、洗濯物など身の回りのことを済ます人が多い。学期末が近づいてくると、部屋や図書館に閉じこもってレポートとテスト勉強に励む人が一気に増える。マンチェスターの学生はメリハリのある生活を送ることで、容量良く勉強を捗らせているような気がする。先生方もほとんど5時頃になると家路に向かい、家族や趣味に費やす時間をとても大事にしている。のんびりとしたイギリス文化の象徴でありながら、やるべきことはきちんと手際良くこなすところにはやはり頭が上がらない。


©2004 筑波大学生物学類