アリ植物
Ant plants

アリ植物

アリ (膜翅目アリ科) は社会生活という特異な生活様式をもち、陸上生態系において非常に繁栄している昆虫群である。植物の中にはアリと特殊な関係を結んでいるものが少なくない。ただし多くの場合、植物種とアリの種の間に密接な対応関係はみられないらしい。

最も単純な例は、アリに餌を与えてガードマンとして雇っている例である。葉柄などにある花外蜜腺から分泌される蜜を目当てにアリが集まる現象はさまざまな植物で見られる (図1)。また花外蜜腺の他にも、脂肪体とよばれる栄養分に富む固形の分泌物をつくり、これにアリが集まるものもある。おそらく集まったアリは食植性の昆虫を排除することで植物に利益を与えるものと思われる。身近な例としてはアカメガシワ (トウダイグサ科)、イタドリ (タデ科)、サクラ属 (バラ科)、カラスノエンドウ (マメ科) などがあり、また熱帯域では特に多い。

より親密度が高い例として、アリ植物 (ant plants, myrmecophytes) とよばれるものがある。トウサンゴヤシ属 (ヤシ科) やオオバギ類 (トウダイグサ科)、アカシア属 (マメ科) の中には、茎の一部が変形し、そこにアリが巣をつくっているものがある。これらの植物も花外蜜腺や脂肪体をつくってアリに食物を供給しており、ガードマンとしてのアリの利用がより進んだものだと思われる。またアリは食植性の昆虫を排除するだけではなく、そのアリ植物にとって不利益になる (光の奪い合いなど) つる植物や隣接する植物の葉や枝を切り落としてしまうことまでするらしい。

ただし植物にとってアリがガードマンとなっているという説は疑問視されることもある。もともと食植性昆虫はそれほど多くないという報告もあり、アリのガードマンとしての有効性はそれほど高くないのかも知れない。アリはしばしば篩管液を食物とする昆虫 (アブラムシ、カイガラムシ、ツノゼミなど) とパートナーシップ結んでいるが、このような昆虫は植物にとって大敵である。花外蜜腺はこのようなアリと篩管液食昆虫との結びつきを妨げる役割を果たしているという説も提唱されている。

さらにアリノストリデやアリノスダマシ (アカネ科) も茎の一部が変形してアリに巣を提供するが、前述の例とは異なる利益を得ているらしい。これらの植物は木本に着生しており、栄養塩に乏しい環境に生育しているが、アリの糞や持ち込んだ餌の食べ残しから栄養塩類を得ているらしい。昆虫を捕らえる vs 昆虫に住居を与えるという方式の違いはあるが、昆虫から栄養塩類を得るという点でこのタイプのアリ植物は食虫植物と共通しているとも言える。

図1. イタドリ (タデ科) の托葉鞘には花外蜜腺があり、しばしばアリが集まっている.