葉は茎に側生する器官であり、ふつう光合成を担っている。多くの維管束植物では、葉は扁平で光を十分受け取れる形をしている。このような葉を普通葉 (foliage leaf) という。一方で葉には変異が多く、さまざまな形態・機能をもつ場合がある。 |
茎生葉と根生葉
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水生植物の葉水生植物はその特殊な生育環境に応じてさまざまな特殊な葉をつける。同一種や同一個体が生育場所・発生段階の違いに応じて複数のタイプの葉をつけることもある。例えばコウホネ (スイレン科) の若い葉は浮水葉だが、成熟すると抽水葉になる。
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特殊な形をした普通葉普通葉は扁平で葉身が広がった形をしていることが多いが、種類によっては普通葉が特殊な形をしていることがある。
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偽葉ふつう葉では葉身が大きく、光合成のために光を多く受け止める働きを果たしているが、特殊な例として葉身が退化して代わりに葉柄が大きくなるものもある。このような葉を偽葉または仮葉 (phyllode, phyllodium) とよぶ。偽葉はソウシジュ () や Oxalis succulenta (カタバミ科) に見られる。サラセニアの捕虫嚢では葉柄が大きな袋状になり、葉身は小さい。また単子葉植物の細長い葉における葉身状の部分は双子葉植物の葉柄やその基部に相当するものであり、本当の葉身は退化してしまっているとの説もある (偽葉説 phyllode theory)。 またタクヨウレンリソウ (マメ科) のように葉身が退化し、托葉がその代わりに大きくなったものも仮葉とよばれることがある。 |
異形葉性一つの個体の普通葉のなかに、形態の異なる複数の型が認められるとき、これを異形葉性 (heterophylly) という。ただし、どの程度以上の差異を異形葉性とするか基準があるわけではない。 クワ (クワ科) やカクレミノ (ウコギ科)、ヒイラギ (モクセイ科) では分裂しない葉から分裂葉までの変異が見られ、異形葉性の好例である。またツタ (ブドウ科) の単葉と三出掌状複葉や、イブキ (ヒノキ科) の鱗状葉と針状葉のように2型が明瞭に区別できる場合、特に二型性 (dimorphism) という。 1つのシュートにつく葉の間で異形葉性が見られる場合、これを特に不等葉性 (anisophylly) という。例えばヒノキ (ヒノキ科) ではシュートに背腹性があり、上面・下面・側面の葉がそれぞれ異なる形を示す。またクサギ (クマツヅラ科) では大きさの異なる葉が組になって十字対生する。 |
苞葉葉腋に花または花序をつける特殊化した葉のことを苞葉 (bract leaf) といい、集合体として苞 (bract) とよばれる。花を抱く葉でも普通葉と変わらない場合には苞葉とはよばない。またアブラナ科の多くのようにそのような葉を欠くグループもある。苞葉は、そのつく位置によって、総苞、小総苞、小苞に分けることができる。 花序の基部にある苞葉のことを総苞片 (involucral scale) といい、集合体として総苞 (involucre) とよばれる。キク科やマツムシソウ科の頭花 (頭状花序) における総苞片は明瞭であり、その配列や特徴は重要な分類形質になっている。また特殊な総苞片としては以下のようなものがある。
ドクダミ (ドクダミ科) やヤマボウシ属 (ミズキ科) の花序の基部にある4枚の大きな葉や、トウダイグサ属 (トウダイグサ科) の花序 (杯状花序) の杯状体などもよくめだつ構造で総苞片とみなされることが多い。これらの葉は目立つ色形をしており、花弁の代わりに花粉媒介者の誘引に役立っている。ただしこれらの葉には腋芽がつくので、厳密には総苞片ではないとする意見もある。 サトイモ科の仏炎苞やドクダミ (ドクダミ科)、ポインセチア (トウダイグサ科)、ブーゲンビレア (オシロイバナ科)、ヤマボウシ属 (ミズキ科) の総苞は大きく派手でよくめだち、かわりに通常の花弁が退化的もしくは欠如している。これらの総苞は機能的には花弁のかわりを果たしているものと思われる。 多くのセリ科のように複合花序をつくるものでは、大花序の苞のことを総苞、小花序の苞を小総苞 (involucel) とよぶ。小総苞の構成単位が小総苞片 (involucel segment) である。イネ科の小穂は小花序であり、その基部にある1対の苞穎 (glume) は小総苞片と見なすことができる。 個々の花の基部につく苞葉のことを小苞 (bracteole, bractlet) という。小苞葉は双子葉植物では2個、単子葉植物では1個のことが多いが、その有無や数には変異も多い。スゲ属 (カヤツリグサ科) の果胞 (perigynium) は特殊化した小苞と考えることができる。 単子葉植物において、花序に腋生する有鞘葉を苞鞘 (苞鞘片 bract sheath) という。 球果類において、胚珠をつけた種鱗 (seed scale) は苞鱗 (bract scale) の腋についている。苞鱗も特殊化した苞葉と見ることができる。 |
葉の変形葉はときに大きく変形して特殊な機能を担っていることがある。
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鱗片葉光合成を行わず、普通葉よりも著しく小形になった葉を鱗片葉 (scale leaf) という。鱗片葉のなかには前記の芽鱗、苞葉、花葉、果鱗、鱗茎葉などが含まれる。ほかにも根茎に鱗片葉がつくことは多く、またシダ類の葉柄につく褐色で針状の付属物、アカマツ (マツ科) の2葉の組の根元を包む小さく膜質の構造、タケ類 (イネ科) の若い地上シュート (いわゆるタケノコ) を包む黒褐色の葉 (タケノコの皮) なども鱗片葉である。 |
低出葉と高出葉普通葉以外の特殊な葉は、シュートにつく位置によって低出葉と高出葉にわけられる。
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葉の食害防止機構葉は植物にとって光合成を担う重要な器官であるが、食植性の動物にとっても重要な餌である。そこで植物は動物による食害を防ぐためにさまざまな方法をとっている。 最も一般的な防御法は、動物にとって有害な物質を貯め込むことである。タンニンやアルカロイド、蓚酸カルシウムなどその物質はさまざまである。そのような物質を含む構造として腺点 (pellucid dot) や腺毛 (glandular hair) が発達することもある。また動物にとっては、いったんその物質に対する耐性を獲得すれば、他の食植性動物が食べない未開拓の餌を得ることができるようになる。このような関係も植物と動物との共進化の一つの側面であろう。 食害防止の構造として最も単純なものは葉縁に存在する鋸歯であろう。大形の食植性動物にとってはこのような構造も立派な食害防止機構になりうる。実際に食植性動物にねらわれやすい下部の葉では鋸歯が発達しているが、上部の葉では鋸歯が未発達であるような例もある。また微小なレベルでは葉に生えるさまざまな毛状突起が食害防止に働いている例もあると思われる。毛状突起の中には粘液物質を分泌して食植性の小型動物 (ハダニなど) をからめ取ってしまうものもあるらしい。 複雑なものとしては花外蜜腺 (extrafloral nectary) がある。被子植物において蜜腺はふつう花の中にあって昆虫など送粉者の誘因に役立っていると考えられるが、花以外の場所に蜜腺が存在することがあり、花外蜜腺とよばれる。イタドリ (タデ科) やサクラ (バラ科)、カラスノエンドウ、アカシア (マメ科) など花外蜜腺は葉柄や葉身など葉の特定の場所に存在することが多い。花外蜜腺の機能としては、余剰なショ糖の処理のほかに、アリなどを引き寄せて他の動物による葉の食害を防御するのに役立っていると考えられている。 花外蜜腺の他にも栄養分に富む固形の分泌物である脂肪体をアリに与え、身を守ってもらっていると思われる例がある。脂肪体にはコショウ科やマメ科の一部にみられる真珠体 (pearl grand, pearl body) や、オオバギやアカメガシワ (トウダイグサ科) にみられる食物体 (food body) などがある。 また特殊なものとしてクスノキ (クスノキ科) などの葉に見られるドマティア (domatia) とよばれる葉脈の腋などにできた小室がある。ドマティアにはダニが棲んでいることが多く、捕食性のダニによって食植性のダニから防御してもらっているのだと考えられている。ただし実際にそのような有効性があるかどうかについては、はっきりしていないようである。 |
葉上生葉は茎に側生する器官であり、成長は有限であるため、ふつう他の器官をつけることはない。しかしときに葉上に花序や不定芽などをつけることがあり、葉上生 (epiphylly) とよばれる。 ハナイカダ (ミズキ科) では普通葉と花序の原基が発生初期から分離せずに成長するため葉の上に花序または花がつく形になる。シナノキ属 (シナノキ科) では苞葉と花序に同様のことが起こり、苞葉の上に花序がつく。またコモチシダ (ウラボシ綱) やセイロンベンケイソウ (ベンケイソウ科) では普通葉の葉縁に不定芽が生じる (葉上不定芽)。 ナギイカダ (スズラン科) でも葉の上に花がついているように見えるが、この"葉"は扁平な茎 (葉状茎) であり、花は葉上生ではない。 |