未成熟な段階にあるシュートのことを芽(bud)という。芽はシュート頂分裂組織と未熟な茎、葉からなる。芽はその形、つく位置、活動などの点でさまざまである。
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頂芽と側芽
- 頂芽 (terminal bud)
- シュートの頂端にあり、シュートを伸長させる芽。
- 側芽 (lateral bud)
- シュート頂の側方にあり、新たなシュートを伸長させる芽。シダ植物において側芽の位置はさまざまであり、葉に関係なくつくもの、葉と互生するもの (トクサ綱)、葉の背軸側につくものなどがある。それに対して種子植物ではふつう側芽は葉の向軸側の腋につき、腋芽(axillary bud)とよばれる。腋芽を抱く葉のことを蓋葉 (subtending leaf) という。頂芽の周囲に集まった側芽は頂生側芽 (terminally lateral bud) とよばれる。また冬季や乾期に枝先 (頂芽) が枯死し、最上位の側芽が頂芽のように振る舞う場合、これを仮頂芽(pseudoterminal bud)という。
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主芽と副芽
- 主芽(main bud)
- 1つの葉腋に複数の腋芽ができた場合、最初に生じた芽のことを主芽という。主芽は葉腋の中心または葉痕の直上にある最も大きな芽である。
- 副芽(accessory bud)
- 1つの葉腋に複数の腋芽ができた場合、主芽以外の芽を副芽という。副芽のうち主芽の上下にあるものを縦生副芽(serial accessory bud)、主芽の左右にあるものを並生副芽(collateral accessory bud)という。双子葉類の副芽は縦生副芽、単子葉類の副芽は並生副芽であることが多い。
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定芽と不定芽
- 定芽(definite bud)
- 種子植物において茎頂と葉腋は定常的に芽ができる位置であり、頂芽と腋芽は定芽とよばれる。
- 不定芽(adventitious bud)
- 茎頂や葉腋以外にできる芽のことを不定芽という。不定芽には以下のものがある。
- 茎上不定芽(cauline bud)
- 側芽であって腋芽でない芽。シダ植物ではふつうに見られるが、種子植物ではほとんど見られない。
- 葉上不定芽(epiphyllous bud)
- 葉に生じる芽。コモチシダ (ウラボシ綱)、タネツケバナ (アブラナ科)、セイロンベンケイソウ (ベンケイソウ科)、カラスビシャク (サトイモ科) などに見られる。
- 根上不定芽(radical bud)
- 根に生じる芽。ヒメスイバ (タデ科)、ヤナギ属 (ヤナギ科)、キイチゴ属 (バラ科)、ヒメジョオン (キク科) などに見られる。
真の不定芽ではないが、一見不定芽に見えるものがある。例えばガジュマル(クワ科)やカカオ(アオギリ科)では幹に花がつき (幹生花 cauliflory)、リギダマツ (マツ科) やハナノキ (ムクロジ科) では幹に葉を生じる。これらは茎上不定芽に見えるが、真の不定芽ではなく、腋芽であったものが年を経て材の中に埋まってしまった潜伏芽(latent bud)から生じたものである。またハナイバナ (ムラサキ科) の花序では腋芽の柄が伸びて茎と癒合しているため茎上不定芽に見えるものがある。ハナイカダ(ミズキ科)の花序では腋芽とその蓋葉(腋芽を抱く葉)が癒合するため葉上不定芽のように見える。
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図1. カカオ (アオギリ科) の花は幹に直接つくが (幹生花)、これは茎上不定芽ではなく潜伏芽に起因する.
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休眠芽
成長や活動を一時的に停止している、つまり休眠 (dormancy) している芽のことを休眠芽 (dormant bud) という。
- 冬芽(越冬芽)(winter bud)
- 冬季に休眠状態にある芽。四季のある地域では、木本でも草本でもふつう冬芽をもつ。
- 夏芽(summer bud)
- 夏期に休眠状態にある芽。乾期のある地域に生育する植物は夏芽をもつ。また乾期ではなくても、ヒガンバナ (ヒガンバナ科) のように夏には鱗茎内で休眠して秋に伸びるようなものもある。
フクジュソウ (キンポウゲ科) やカタクリ (ユリ科) のように早春から春にかけてのわずかな期間のみ地上に現れる草本をスプリング・エフェメラル(早春期植物 spring ephemeral)というが、スプリング・エフェメラルの芽は冬芽でありかつ夏芽でもある。
休眠芽は他の器官に覆われて外見からは見えなくなっていることがある。
- 隠芽(concealed bud)
- 今年枝の組織の中に隠された芽。ニセアカシア(マメ科)の冬芽は葉の基部の膨らみ(葉枕)の中に埋もれている。サルナシ(マタタビ科)の冬芽は完全に埋没した陰芽だが、同属のマタタビの冬芽はわずかに先端が出ている。このような芽は半隠芽(semiconcealed bud)という。
- 葉柄内芽(intrapetiolar bud)
- 葉柄の基部が鞘状になり、その腋芽を覆っているもの。葉柄が落下すると葉痕に囲まれた冬芽が現れる。ユリノキ(モクレン科)やプラタナス(スズカケノキ科)、ハクウンボク(エゴノキ科)、シシウド属(セリ科)などに見られる。
- 潜伏芽(latent bud)
- 数シーズンにわたって休眠状態にあるため、他の組織に埋もれてしまった芽。木本では材の中に埋まってしまう。潜伏芽はそのまま消失することが多いが、イチョウ(イチョウ科)やハンノキ(カバノキ科)、カカオ(アオギリ科)などでは数年後に活動を再開するため茎上不定芽のように見える。
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有鱗芽と裸芽
- 有鱗芽(scaled bud)
- 鱗片葉(芽鱗 bud scale)によって覆われた芽。ふつう冬芽は有鱗芽であり、その芽鱗の数・並び方は重要な分類形質になる。鱗芽ともいうが、むかごの一種である鱗芽(bulbil, 後述参照)とは別物である。
- 裸芽(naked bud)
- 芽鱗をもたない芽。芽鱗はないが、自身の最も外側の葉や蓋葉、他の葉などに保護されている。裸出芽や無鱗芽ともいう。クルミ属(クルミ科)やハンノキ属(カバノキ科)、クサギ属、ムラサキシキブ(クマツヅラ科)などに見られる。特に熱帯域の植物の芽は裸芽であることが多い。
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芽内形態
芽の中には未成熟の葉が入っている。このような芽の中における葉の形や相互関係を芽内形態(vernation, praefoliation)という。また芽 (花芽、混芽) の中における花弁など花葉の形態などを表す場合にも同様な用語が使われるが、特に花芽内形態 (aestivation, estivation, praefloration) と呼ばれることもある。
芽内形態において、個々の葉の形態については芽中姿勢 (折り畳み、葉襞、葉畳み ptyxis, pl. ptyxes) という。芽中姿勢には以下のようなものがある。
- 扁平状(plane)
- 折り畳まれることなく、多少湾曲する程度である状態。最も普遍的な芽中姿勢である。カシ属、ブナ属 (ブナ科)、ヤナギ属 (ヤナギ科)、ツバキ属 (ツバキ科) などにみられる。
- 扇だたみ(摺襞状)(plicate, plaited)
- 複数の肋を折り目に扇状に折りたたまれること。掌状脈をもった葉においてみられ、スグリ属 (スグリ科)、ハゴロモグサ属 (バラ科)、カエデ属 (ムクロジ科) などに知られる。
- 二つ折り(摺合状)(conduplicate)
- 1本の中肋を折り目に向軸側を内側に折りたたまれること。モクレン属 (モクレン科) やニレ属 (ニレ科)、サクラ属 (アンズ節とスモモ節を除く、バラ科) などに見られる。
- 外巻き(外旋状)(revolute)
- 葉の両縁が背軸側で中軸に向かって巻き込んでいること。プラタナス (スズカケノキ科) やツツジ属 (ツツジ科)、ローズマリー (シソ科) などに見られる。
- 内巻き(内旋状)(involute)
- 葉の両縁が向軸側で中軸に向かって巻き込んでいること。スイレン属 (スイレン 科) やスミレ属 (スミレ科)、ハコヤナギ属 (ヤナギ科) などに見られる。
- しわ寄り(corrugate, crampled)
- しわくちゃに折りたたまれること。限られた空間内で急速に成長することによって生じる。ケシ属 (ケシ科) の花芽などに見られる。
- 渦巻状(磐旋状)(circinal, circinate)
- 先端方向から基部に向かって渦巻状に巻き込んでいること。一般的なシダ類やモウセンゴケ属 (モウセンゴケ科) などに見られる。
芽内形態において、葉 (花葉を含む) の相互の位置関係のことを芽中包覆 (幼葉重畳法、芽層 狭義の aestivation) といい、特に花被片の特徴としてよく用いられる。芽中包覆には以下の3つがある。また芽内ではないが芽を包む芽鱗やその他の鱗片葉の配置を表すにのにも同じ用語が使われる。
- 瓦重ね状(覆瓦状)(imbricate, imbricative)
- 互いに順に重なり合って瓦葺きのように最も内側のもとと最も外側のものができる配置。最も普遍的な芽中包覆であり、芽鱗の配置としても最もふつうに見られる。
- 敷石状(扇状、接合状、辺合状)(valvate, valvular)
- 互いに重ならず、縁が接している配置。バラ属 (バラ科) やアオイ科の蕚片、アブラナ科やキキョウ科の花弁、モクレン属(モクレン科)の芽鱗、キオン属やニガナ属(キク科)の総苞片などに見られる。
- 片巻き状(回旋状、包旋状)(convolute, obvolutre, contorted, twised)
- 一方向に順に重なって旋回している配置。ナデシコ属 (ナデシコ科) やアカバナ科、リンドウ科の花弁または果敢列片、スモモ(バラ科)の葉などに見られる。
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むかご
地上部のシュートの腋芽が肥大してできた構造で、栄養繁殖に用いられるものをむかご、または珠芽(propagule)という。
- 肉芽(brood, brood bud)
- 芽の茎の部分が肥大し球状になったもの。狭義にはむかごは肉芽に限られる。ヤマイモ(ヤマイモ科)などに見られる。
- 鱗芽(bulbil)
- 芽の葉原基の部分が肉質になったもの。コモチマンネングサ(ベンケイソウ科)やオニユリ(ユリ科)に見られる。
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