陸上植物の多くは酸素発生型光合成によって光からエネルギーを得る独立栄養性物であるが、なかには光合成以外の経路から栄養分を得る植物もある。たとえば寄生植物 (parasitic plant) は生きた植物から養分を吸収し、腐生植物 (saprophytic plant) は根に共生した菌類 (菌根菌) から栄養を得ている。
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寄生植物
寄生植物 (parasitic plant) は生きた植物の組織から養分を吸収し、栄養分とする植物である。栄養を吸収される側の植物を宿主植物 (host plant) という。光合成と吸収栄養を併用する種もあるし (半寄生植物)、光合成能を失って全面的に吸収栄養に頼る種もある (全寄生植物)。
寄生植物は被子植物のビャクダン目やシソ目 (ハマウツボ科) に多く、裸子植物では2種のみが知られている。単子葉植物やシダ植物には寄生植物は存在しない。全体ではおよそ280属4000種が知られる (表1)。
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Introduction to Parasitic Flowering Plants (Nickrent & Musselman 2004)
The Parasitic Plant Connection (by Nickrent)
目 |
科 |
属数 |
種数 |
代表属 |
寄生部位 |
寄生様式 |
分布 |
クスノキ目 |
クスノキ科 |
1 |
16 |
スナヅル属 Cassytha |
茎 |
半寄生 |
汎熱帯 |
コショウ目 |
ヒドノラ科 |
2 |
15 |
Hydnora, Prosopanche |
根 |
全寄生 |
アフリカ、マダガスカル、南米 |
ビャクダン目 |
オラックス科 |
14 |
98 |
Heisteria, Olax, Strombosia, ハマナツメモドキ属 Ximenia, (ex. Brachynema) |
根 |
半寄生 |
汎熱帯 |
ミソデンドロン科* |
1 |
11 |
Misodendrum |
茎 |
半寄生 |
南米南端 |
オオバヤドリギ科* |
68 |
900 |
Amyema, Phthirusa, ニンドウヤドリギ属 Psittacanthus, Struthanthus, Tapinanthus |
根、茎 |
半寄生 |
汎熱帯 |
ボロボロノキ科* |
1 |
30 |
ボロボロノキ属 Schoepfia |
根 |
半寄生 |
東南アジア、中南米 |
カナビキボク科* |
10 |
30 |
Agonandra, カナビキボク属 Opilia |
根 |
半寄生 |
汎熱帯 (アフリカを除く) |
ビャクダン科* (含 ヤドリギ科) |
43 |
1100 |
Comandra, Dendrophthora, セイヨウヤドリギ属 Phoradendron, ビャクダン属 Santalum, Thesium, ヤドリギ属 Viscum |
根・茎 |
半寄生 |
世界中 |
ツチトリモチ科* |
16 |
43 |
Balanophora, Corynaea, Scybalium, Thonningia |
根 |
全寄生 |
汎熱帯 |
ユキノシタ目 |
キナモリウム科* |
1 |
2 |
Cynomorium |
根 |
全寄生 |
地中海沿岸、西アジア |
ハマビシ目 |
クラメリア科* |
1 |
18 |
Krameria |
根 |
半寄生 |
北南米 |
キントラノオ目 |
ラフレシア科* |
3 |
20 |
Rafflesia, Rhizanthes, Sapria |
根、茎 |
全寄生 |
マレー半島 |
アオイ目 |
キティヌス科* |
2 |
7 |
Bdallophyton, Cytinus |
根 |
全寄生 |
地中海沿岸、南アフリカ、マダガスカル、メキシコ |
ツツジ目 |
ヤッコソウ科* |
1 |
2 |
ヤッコソウ属 Mitrastema |
根 |
全寄生 |
東南アジア、中米 |
ナス目 |
ヒルガオ科 |
1 |
160 |
ネナシカヅラ属 Cuscuta |
茎 |
半/全寄生 |
全世界 |
シソ目 |
ハマウツボ科 |
87 |
1680 |
ナンバンギセル属 Aeginetia, Alectra, Castilleja, オニク属 Boschniakia, Epifagus, コゴメグサ属 Euphrasia, Harveya, ハマウツボ属 Orobanche, シオガマ属 Pedicularis, オクエゾガラガラ属 Rhinanthus, Sopubia |
根 |
半/全寄生 |
全世界 |
ムラサキ目 |
ムラサキ科 (レノア亜科) |
3 |
7 |
Ammobroma, Lennoa, Pholisma |
根 |
全寄生 |
北米南部〜南米北部 |
不明 |
アポドンテス科* |
3 |
23 |
Apodanthes, Berlinianche, Pilostyles |
根、茎 |
全寄生 |
アフリカ中部、中近東、オーストラリア西南端、中南米 |
表1. 寄生植物. * は科の全ての種が寄生植物である科.
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全寄生植物と半寄生植物
- 全寄生植物 (holoparasitic plant)
- 少なくとも芽生えのとき以外は全く光合成能を欠き (だから色素体は葉緑体にならない)、有機物も含めた栄養分を全面的に宿主植物に頼っている寄生植物。つまり全寄生植物は従属栄養性 (heterotrophic) である。根や不定根 (寄生根) を宿主へ侵入させ、木部と篩部に寄生根を差し込んでいる。ツチトリモチ科、ラフレシア科、ハマウツボ科の一部 (ヤセウツボやナンバンギセル) などがある。一般に茎はやわらかく葉は鱗片葉または退化しており、ラフレシアのように栄養体が小型で、生殖器官である花が大きい傾向がある。
- 半寄生植物 (hemiparasitic plant)
- 葉緑体を有して光合成を行うが、水や無機栄養分を宿主植物の木部から吸収する寄生植物。根や不定根 (寄生根) を侵入させ、宿主の木部に差し込んでいる。マツグミ科、ビャクダン科、ハマウツボ科 (ゴマクサ属、ママコナ属、シオガマギク属、コゴメグサ属など) などがある。AmyemaやMacrosolen (オオバヤドリギ科) 、Phoradendron (ビャクダン科) 、スナヅル (クスノキ科) のように同じ種の他の個体に寄生する自家寄生性 (autoparasitic) の種もある。
成長したネナシカズラは完全に宿主に依存しているが、芽生えからしばらくの間は自立して生活しており、全寄生植物と半寄生植物の中間的な段階にある。全ての全寄生植物は、寄生しなければ生きられない絶対寄生性 (obligate parasite) である。それに対して半寄生植物の中には、絶対寄生性の種と同時に、寄生しなくても生きていける通性寄生性 (facultative parasite) の種も含まれる。
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図1. 全寄生植物.全寄生植物は光合成能を欠き、栄養的に宿主に完全に依存している.左:ナンバンギセル (ハマウツボ科) はススキ (イネ科) などに寄生.左:ヤセウツボ (ハマウツボ科) はアカツメクサ (マメ科) などに寄生.
図2. 半寄生植物.半寄生植物は光合成能を残しているが、部分的に宿主に依存している.左:エゾシオガマ (ハマウツボ科).左:タチコゴメグサ (ハマウツボ科).
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吸器
寄生植物が宿主植物へ吸着させる構造は、吸器 (haustorium, pl. haustria) とよばれる特殊化した根 (寄生根 parasitic root) である。これを宿主植物の根に吸着させている種 (根吸着型寄生植物 root parasitic plant) が多いが (全体の60%) 、ネナシカズラ (クスノキ科) のように宿主植物の茎に吸着させる種もある (茎吸着型寄生植物 stem parasitic plant)。
寄生根は、自身の木部と宿主の木部の間を木部架橋 (xylem bridge) という特殊な組織で架橋し、水分・無機栄養分を吸収する。篩部は直接架橋されることはないが、木部架橋に付随する柔組織を通じて宿主の栄養分が吸収される。寄生根はその起源や形態に基づいていくつかのタイプに分けることができる。
- ハマウツボ型 (Orobanche type)
- 発芽後の幼根が宿主の根に侵入し、分枝する。成長につれて最初の寄生根は退化し、代わりに根茎が発達して宿主の根を取り込むものもある。全寄生植物のツチトリモチ科やヤッコソウ科、ハマウツボ科に見られる。
- ネナシカズラ型 (Cuscuta type)
- 種子発芽後、主根はまもなく退化し、宿主に巻き付いた枝の随所から不定根である寄生根を出して宿主に侵入する。つる性の全寄生植物であるスナヅル (クスノキ科) やネナシカズラ (ヒルガオ科) に見られる。
- ヤドリギ型 (Viscum type)
- 種子が発芽しても主根は伸張せず、胚軸下部が吸盤状になり宿主に固着する。その後、そこから不定根を出して宿主の樹皮内に侵入し、分枝する。分枝した根が木部に侵入して吸器になる。半寄生植物であるヤドリギ (ビャクダン科) などに見られる。
- シオガマギク型 (Pedicularis type)
- 半寄生植物において宿主の地中根に寄生根が侵入するもの。ハマウツボ科 (コゴメグサ属、シオガマギク属など) やビャクダン科 (カナビキソウ、ツクバネなど) に見られる。
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寄生植物の繁殖と宿主特異性
根吸着型寄生植物の散布体はふつう種子であり、種子が極めて微小で大量に放出されるものが多い (埃種子 dust seed)。種子は宿主植物から出る化学シグナル (ストリゴラクトン) に応答して発芽し、宿主の根に接すると機械的圧力や加水分解酵素によって根に侵入する。一方、茎吸着型寄生植物の散布体はふつう果実 (液果) であり、鳥などによって宿主の茎へ伝播される。
寄生植物は草本性のものが多く、一年草の種も多年草の種も存在する。木本性の寄生植物としてはビャクダンやヤドリギ (ビャクダン科) などがある。ふつう特定の寄生植物の宿主は、科〜属レベルで決まっていることが多いが、Fagus grandifolia (ブナ科) にしか寄生しない Epifagus virginiana (ハマウツボ科) のように種レベルの特異性を持つものもあるし、ネナシカズラ (ヒルガオ科) のように広範囲な宿主をもつ種もいる。一般的に宿主特異性が高い寄生植物では生育期間が長いものが多く、選択性の低い種は短命である。
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寄生植物による被害
寄生植物は宿主植物から水と養分を吸収するので、宿主植物の生育を悪化させる。農作植物に寄生する寄生植物は、農業に大きな被害を与えることがあり (30%以上の収量低下を引き起こすことがある)、寄生雑草とよばれる。またこのように栽培植物に害を与える寄生植物は、病原植物 (pathogenic plant) とよばれる (表2)。アフリカ・アジアでトウモロコシ、イネ、ソルガム、キビ、サトウキビなど (イネ科) に害を与える Striga (英名 witchweed、ハマウツボ科)、地中海沿岸から中近東でマメ科、タバコ、トマト (ナス科)、ヒマワリ (キク科) に害を与えるOrobanche (英名 broomrape、ハマウツボ科)、アフリカでピーナッツ、ササゲ (マメ科) 、ヒマワリ (キク科) などに害を与える Alectra (英名 witchweed、ハマウツボ科)、世界中でマツ科やヒノキ科などに害を与える Arceuthobium (英名 dwalf mistletoe、ビャクダン科)、世界中でマメ科を中心にさまざまな植物に寄生するネナシカズラ属 (英名 dodder、ヒルガオ科) などが有名である。
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科 |
種 |
宿主 |
被害地域 |
クスノキ科 |
Cassytha filiformis |
さまざまな木本 |
汎熱帯 |
ヒドノラ科 |
Prosopanche bonacinae |
ワタ |
アルゼンチン |
オオバヤドリギ科 |
Agelanthus spp. |
Vitellaria |
ブルキナファソ |
Amyema spp. |
ユーカリ属 |
オーストラリア |
Dendrophthoe spp. |
カポックなど |
インド |
Phthirusa spp. |
パラゴムノキ、チークなど |
中南米 |
Psittacanthus spp. |
ミカン属 |
メキシコ |
Struthanthus spp. |
コーヒー、ミカン属など |
中南米 |
Tapinanthus bangwensis |
カカオなど |
アフリカ |
ビャクダン科 |
Acanthosyris pauloalvimii |
カカオ |
ブラジル |
Exocarpos spp. |
ユーカリ属 |
オーストラリア |
Osyris alba |
ブドウ |
ユーゴスラビア |
Pyrularia pubera |
バルサムモミ |
北米 |
Thesium spp. |
サトウキビ、大麦など |
スペイン、アフリカ、オーストラリア、北米 |
Arceuthobium spp. |
マツ科、ヒノキ科 |
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、北米 |
Dendrophthora poeppigii |
パラゴムノキ |
ブラジル |
Phoradendron spp. |
さまざまな木本 |
北米、南米 |
Viscum spp. |
さまざまな木本 |
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オーストラリア |
ツチトリモチ科 |
Thonningia sanguinea |
パラゴムノキ |
ナイジェリア |
Balanophora indica |
コーヒー |
インド |
ヒルガオ科 |
Cuscuta spp. |
さまざまな植物 (特にマメ科) |
世界中 |
ハマウツボ科 |
Aeginetia indica |
サトウキビ |
インド、フィリピン、インドネシア |
Alectra spp. |
ササゲ、タバコ、ヒマワリ |
アフリカ |
Bartsia odontites |
ウマゴヤシ |
北米 |
Christisonia wightii |
サトウキビ |
フィリピン |
Orobanche ramosa Orobanche crenata Orobanche minor |
さまざまな作物 (特にマメ科、ナス科、ニンジン) |
世界中 |
Rhamphicarpa fistulosa |
ピーナッツ、イネ |
アフリカ |
Rhinanthus serotinus |
牧草 |
ヨーロッパ |
Seymeria cassioides |
マツ |
北米南部 |
Striga hermonthica Striga asiatica Striga gesnerioides |
さまざまな作物 (特にイネ科) |
アフリカ、アジア、オーストラリア、北米 |
表2. 栽培植物に害を与える寄生植物 (病原植物)
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腐生植物
維管束植物の多くは、根において菌類 (菌根菌) と共生して菌根 (mycorryhiza) を形成している。ふつう菌根では、無機栄養類 (窒素やリン) が菌 (菌根菌) から植物に供給され、光合成によってつくられた有機物が植物から菌類に供給される。しかし一部の植物では、菌根に対する栄養依存の割合が大きく、中には菌根菌が有機物を含めたほとんどの栄養分を植物体に供給していることもある。このような植物は光合成能を失っており、腐生植物 (saprophytic plant) とよばれる。
腐生植物としては、ギンリョウソウ科 (=ツツジ科)、ホンゴウソウ科、ヒナノシャクジョウ科の多く、ラン科の一部 (オニノヤガラ属、ツチアケビ属、ショウキラン属、ムヨウラン属、サカネラン属など)、Voyria、Voyriella (リンドウ科)、Arachnitis (コルシア科) などがある。これらの植物では、種子が微小なものが多く (埃種子)、発芽生育の初期から菌類との共生が成立しないと生育できない。ラン科では、菌根の菌根菌が皮層細胞内に菌糸の塊 (菌毬) を形成するが、やがてこの菌毬はランによって消化吸収されてしまう。また腐生植物においては、菌根菌が別の植物と通常の菌根を形成していることがあり、この場合、腐生植物は菌根菌の菌糸を介して別の植物に寄生しているとも言える。腐生植物の菌根は、モノトロポロイド型菌根やラン型菌根など特殊な菌根が多いが、もっとも普遍的な菌根であるアーバスキュラー菌根 (VA菌根) の中にも、他の植物との菌根を介して腐生植物に栄養補給をしている例があるらしい (Bidartondo et al. 2002) 。
ほとんどの陸上植物は菌根を形成しており、ふつう植物は菌類に有機物を与え、逆に菌類から無機塩類 (リンや窒素など) を得ている。しかし中には有機物を得ている例もあるものと思われ、特にイチヤクソウ (ツツジ科) などでは光合成も行うが、同時に有機栄養分の点でも菌類に依存しているとする意見もあり、半腐生植物といえるかもしれない。
生活環の一時期を完全に菌類に依存しているパートタイマー的な腐生植物もいる。ラン科の種子は極めて小さく (埃種子) 胚も未発達であり、菌類と共生してプロトコームという複合体を形成して初めて発芽・成長できる。光合成能をもつ種ではその後、初めて光合成を行うようになる。またシダ植物のヒカゲノカズラ綱やマツバラン綱の配偶体 (前葉体) は地中性で光合成を行わず、栄養的には共生する菌類に依存して生活している。
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図3.腐生植物.左:ギンリョウソウ (ツツジ科).左:オニノヤガラ (ラン科).
図4.コバノイチヤクソウ (ツツジ科).イチヤクソウ類は特異な菌根が発達して根毛を欠いている。光合成能はあるが、栄養的に菌根菌に一部依存しているのかもしれない.
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