菌根
Mycorryhiza

多くの場合、陸上植物の根はその組織内に入り込んだ菌類と恒常的な共生関係を築いている。このような根を菌根 (mycorryhiza) といい、共生菌のことを菌根菌 (mycorrhizal fungus) とよぶ。植物は光合成由来の糖類を菌根菌に供給し、菌根菌は土壌から吸収した無機栄養分 (窒素やリン、カリウム、鉄など) を植物に供給する。このように植物と菌根菌の関係は基本的に相利共生である。しかし光合成能を欠くラン科植物などでは、炭素源を含むほとんどの栄養を菌根菌に依存しており、むしろ植物が一方的に菌根菌を利用しているといえる (菌類従属栄養 mycoheterotrophy) 。

アブラナ科やアカザ科などを除いてほとんど全ての維管束植物は菌根を形成しており、コケ植物やシダ植物の前葉体など根を形成しない陸上植物も菌類との共生関係を築いていることが知られている。菌根を形成する菌類 (菌根菌) も多様であり、分類群としては子嚢菌、担子菌、アツギケカビ類、グロムス菌の場合がある。

菌根は以下の7つのタイプに大別される (表1)。なお外生菌根に対して、菌糸が細胞壁内に入り込んでいるものを内生菌根 (endomycorrhiza) と総称することがある (アーバスキュラー菌根に限ることもある) 。また根と菌が関連してはいるが、以下の7型には当てはまらず共生関係が不明瞭なものは、偽菌根 (pseudomycorrhyza) とよぶことがある。

菌根とは (明間 民央 氏)
Mycorrhyzae and Plant Phylogeny (by F. Landis)
  外生菌根 内外生菌根 アーバスキュラー菌根 エリコイド型菌根 アーブソイド型菌根 モノトロポイド型菌根 ラン型菌根
細胞内構造 なし "Microsclerotia" 樹状体 菌糸コイル 菌糸コイル 菌糸ペグ 菌糸コイル
細胞間隙構造 ハルティヒ・ネット ハルティヒ・ネット 単純な菌糸または嚢状体 単純な菌糸 ハルティヒ・ネット ハルティヒ・ネット 単純な菌糸
菌鞘 あり 退化的または無し 無し 無し あり あり 無し
腐生植物との共生 まれ なし なし あり あり あり
菌根菌 担子菌
子嚢菌
アツギケカビ類
子嚢菌 グロムス菌 子嚢菌
担子菌?
担子菌 担子菌 担子菌
菌根菌の種数 6000種以上 300種程度? 少数 少数 少数 少数?
植物 マツ科、ブナ科
カバノキ科、ヤナギ科
フタバガキ科、フトモモ科
マツ属 コケ〜被子植物 ツツジ科
いくつかのコケ植物?
ツツジ科
(アーブソイド亜科
イチヤクソウ亜科)
ツツジ科
(シャジクソウ亜科)
ラン科
植物の種数 種子植物の3% 陸上植物の70%以上 少数 少数 少数 被子植物の約10%
表1. 菌根の7タイプ. (Landis 2003. Mycorrhyzae and Plant Phylogeny)

外生菌根

菌糸が根 (主根よりも側根に多い) の表面や表皮細胞、皮層細胞の間隙にあって細胞内には入らない菌根のことを外生菌根 (外菌根 ectomycorrhiza, ECM) という。ふつう外生菌根菌の菌糸は皮層細胞の細胞間隙に張りめぐらされた網目状構造を形成し、この網目はハルティヒ・ネット (Hartig net) とよばれる。また菌糸は細根の周囲に菌鞘 (fungal sheath, fungal mantle) とよばれる厚い菌糸層を形成する。

外生菌根の存在は、根の窒素やリンなどの吸収を増加させ (表2) 、特に土壌中におけるこれらの栄養塩類の濃度が低いときに顕著である。窒素源としてはNH4+やNO3-、リン源としてはH2PO4-が供給源となる。また外生菌根を形成するのは下記のように木本類が多いため、森林の成長とともに増加する有機体リンや窒素の分解と供給が主になるらしい。窒素源はアミノ酸などとして、リンはポリリン酸として、ハルティヒ・ネットから植物根へアポプラスティックに供給される。またおそらく水も植物に渡される。一方、植物からの六単糖やビタミン類も、根からハルティヒ・ネットへアポプラスト経由で供給される。根の老化・枯死時には、逆に無機栄養類が菌根菌にもたらされ、菌糸が根の細胞内へ進入することがある。また外生菌根の存在は、土壌病原菌に対する抵抗力の向上にも寄与し、菌鞘の存在は他の微生物や有害物質の侵入を阻止する。外生菌根菌の中には植物ホルモン (オーキシンなど) を分泌するものが知られており、根の形態・成長に影響を与えているのかもしれない。

外生菌根は生態学的に重要な木本類に多く見られ、裸子植物のマツ科や被子植物のブナ科、ヤナギ科、カバノキ科、フタバガキ科、フトモモ科などが知られる。子嚢菌、担子菌、接合菌 (アツギケカビ目) と多様な菌類が外生菌根菌となるが、担子菌であるものが多い。身近なものとしてはマツタケ、テングタケ、ベニタケ (担子菌) 、トリュフ (子嚢菌) などがある。培養が可能な種もあるが、困難であるものや未調査のものが多い。植物と菌の特異性のレベルはさまざまであるが、種対種のような高い特異性は少なく、複数の種〜属レベルのものが多い。ふつう1種の植物は複数の外生菌根菌と共生し、根の場所による棲み分けや、成長にともなう菌根菌の遷移が起こることが知られている (初期菌群 early-stage fungi → 後期菌群 late-stage fungi)。また外生菌根菌とアーバスキュラー菌根菌 (ユーカリやヤナギ) または外生菌根菌と根粒放線菌 (ハンノキ) が共存・遷移する種も知られている。

外生菌根 全乾燥重量
(mg)
根乾燥重量
(mg)
窒素 (N) リン (P) カリウム (K)
T* SA* T* SA* T* SA*
形成あり 448 180 5.39 0.030 0.849 0.0047 3.47 0.019
361 170 4.62 0.027 0.729 0.0042 2.57 0.015
形成なし 361 182 2.51 0.018 0.268 0.0015 1.94 0.011
301 152 2.40 0.016 0.211 0.0014 1.17 0.008
300 174 3.16 0.013 0.229 0.0013 1.04 0.006
表2. ストローブマツにおける外生菌根の有無と栄養吸収 (堀越・二井 2003)
* T = 全吸収量 (mg), SA = 特異的吸収量 (mg/mg根乾燥量)

内外生菌根

外生菌根と同様、菌鞘とハルティッヒ・ネットを形成するが、同時に皮層細胞壁内に菌糸が侵入してコイル状の構造 ("Microsclerotia") を形成するものを、内外生菌根 (ectendomycorryhiza) という。共生関係の栄養収支については不明の点が多い。マツ属の実生などに見られ、子嚢菌が菌根菌となる。条件によっては外生菌根菌偽菌根菌、病原菌になることがあり、系統的にこれらと関連しているものだと考えられている。

アーバスキュラー菌根 (VA菌根)

アーバスキュラー菌根 (arbuscular mycorryhiza, AM) では、皮層細胞の細胞壁と細胞膜の間に樹枝状体 (arbuscule) とよばれる分枝する栄養授受器官を、細胞間隙に嚢状体 (vesicule) とよばれる袋状の貯蔵器官を形成する。アーバスキュラー菌根菌は根外へも菌糸を伸ばしている。嚢状体と樹枝状体の頭文字をとってVA菌根 (vesicular-arbuscular mycorryhiza, VAM) ともよばれることも多いが、嚢状体を形成しない場合もある。樹枝状体の形態や細胞間菌糸の発達程度によってアルム型パリス型に類別される (表3) 。

アーバスキュラー菌根の存在は、根の無機栄養、特にリンの吸収を増加させ、外生菌根と同様、土壌中における栄養塩類の濃度が低いときに特に顕著である (表4) 。また土壌中のリンはしばしば有機態が優占しているが、この場合菌類が分泌する酸性フォスファターゼによって遊離するH2PO4-が吸収される。得られた無機栄養は、樹枝状体から植物根へアポプラスティックに供給される。一方、植物からの六単糖類も、根から細胞間菌糸へアポプラスティックに供給される。また外生菌根と同様、根の老化・枯死時には、逆に無機栄養類が菌根菌にもたらされる。アーバスキュラー菌根の機能としては、他に耐病性の向上や水分吸収の促進がある。

アーバスキュラー菌根は最も一般的な菌根であり、極めて多くの陸上植物にみられる (陸上植物の科の90%) 。アーバスキュラー菌根菌は、グロムス菌(以前は接合菌に分類されていた) に属する。グロムス菌のうち、グロムス亜目の種は嚢状体を形成する。グロムス菌類は絶対菌根菌であり、単独培養はできない。アーバスキュラー菌根における植物と菌の特異性は極めて低く、ある植物は多数の菌類と、ある菌類は多数の植物と菌根共生関係を結ぶ。しかし、ある程度の生態的特異性 (ecological specificity) があることが知られている。アーバスキュラー菌根は最も古い歴史をもち、その起源は約4億年以上前、つまり陸上植物の起源にさかのぼると考えられている。

  アルム型 パリス型
細胞間隙の菌糸 直線的で太い ほとんど発達しない
菌糸の侵入 それぞれ細胞間隙の
菌糸から侵入
細胞内の菌糸から
隣接する細胞へ侵入
樹枝状体 二又分岐を繰り返した樹状 コイル状、一部は樹状
表3. アーバスキュラー菌根の2型
リン施肥量
(mmol/kg)
アーバスキュラー
菌根菌の接種
菌根定着率
(%)
乾燥重量
(mg/植物)
乾燥重量あたりのリン量
(µg/mg)
茎葉 全体 茎葉
0 - 36 39 75 0.53 0.79
74 51 58 109 1.34 1.98
0.2 - 57 63 120 0.75 1.02
72 57 90 147 2.12 2.83
0.4 - 70 97 167 1.20 1.29
63 60 104 164 3.00 3.11
0.67 - 87 132 218 1.77 1.57
53 67 120 187 2.33 2.83
表4. アーバスキュラー菌根の有無と土壌中リン濃度、リン吸収量の関係 (堀越・二井 2003)

エリコイド型菌根

エリコイド型菌根 (ツツジ型菌根 ericoid mycorryhiza, ericaceous mycorryhiza) では、非常に細い根 (hair root) の皮層細胞の中にコイル状の菌糸 (菌糸コイル hyphal coil) があり、そこから土壌中へ細かい菌糸を伸ばしている。エリコイド型菌根菌は高い有機物分解能を残しており、土壌からの吸収とともに有機物分解によって得られた無機栄養分を植物に供給している。また菌根菌は、炭素源として自身の有機物分解とともに植物からの供給の両方に依存している。未分解の有機物が堆積して強酸性を示す土壌 (ヒースランドなど) で優先的となり、そのような場所で多量に溶脱する重金属イオン (アルミニウムなど) の植物体への転送を抑えることによって、重金属毒性を抑制している。ツツジ目に広く見られる。菌根菌は子嚢菌であり、培養は比較的容易だが、担子菌の関与も示唆されている。

アーブトイド型菌根

アーブトイド型菌根 (arbutoid mycorryhiza) は、内外生菌根と同様、外生菌根的な構造とともに (菌鞘があまり発達しないこともある) 、根の細胞内に菌糸コイルを形成する。栄養収支についてはまだ完全にはわかっていないが、他の菌根と同様、植物からは炭素源が、菌根菌からは無機栄養分が供給されていると思われる。ツツジ科のマドロナ属 (Arbutus) 、クマコケモモ属 (Arctostaphylos) (硬葉樹林の代表的な低木) やイチヤクソウ属などに見られる。イチヤクソウ型菌根ともいわれるが、イチヤクソウ属の菌根は後記のモノポロイド型菌根に含める場合もある (イチヤクソウ属の光合成量は生存に十分ではないともいわれる) 。菌根菌は担子菌であり、組み合わせる植物種によっては外生菌根を形成することが知られている。系統的には特殊化した外生菌根であると考えられる。またアーブトイド型菌根を形成する植物の種子は極めて微小であり (埃種子) 、発芽初期からの菌根菌との関係が示唆されるが、未だ明らかではない。

モノトロポイド型菌根

モノトロポイド型菌根 (シャクジョウソウ型菌根 monotropoid mycorryhiza) は外生菌根的な構造を形成すると同時に、根の細胞内に菌糸ペグ (penetration peg) を貫入させている。シャクジョウソウ型菌根を形成する植物は光合成を行わず、炭素源を含むほとんどの栄養源を菌類に依存している菌類従属栄養性である (腐生植物) 。

シャクジョウソウやギンリョウソウなどシャクジョウソウ科 (=ツツジ科) に見られる。菌根菌は担子菌であり、種特異性が高い。菌根菌はシャクジョウソウ類とモノトロポイド型菌根を形成すると同時に、隣接する木本と外生菌根を形成している。シャクジョウソウ類が得る炭素源はこの木本が光合成で生成したものであり、栄養的には菌根菌を介して木本に依存しているともいえる。アーブトイド型菌根と同様、系統的には特殊化した外生菌根であると考えられる。またモノトロポイド型菌根を形成する植物の種子も極めて微小であり (埃種子) 、発芽初期からの菌根菌との関係が示唆されるが、未だ明らかではない。

ラン型菌根

ラン型菌根 (orchid mycorryhiza) では、皮層細胞内に菌糸コイル (菌毬) を形成する。この菌糸コイルは一定期間を経ると、植物に分解吸収される (食べられてしまう!) 。菌根菌はふつう高い腐生能をもち、また他の植物に対して病原菌となることもある。一方、別の植物の外生菌根菌が同時にラン型菌根を形成することも知られている。ラン科に見られ、特にオニノヤガラなどの非光合成種は栄養的に完全に菌根菌に依存している (菌類従属栄養性) 。菌根菌は担子菌類であり、Rhizoctonia (広義) やArmillaria (ナラタケ属) がよく知られている。ラン科の種子は極めて小さく (埃種子) 内部の胚も未分化であり、自然下では菌根菌の存在があって初めて発芽が可能になる。発芽したものはプロトコーム (protocorm) とよばれる菌類との複合体を形成し、ラン型菌根をもった成体へと成長する。