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 筑波大学生命環境系 生物科学系 

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〒305-8572 茨城県つくば市天王台1−1−1

細胞性粘菌とはCONCEPT

細胞性粘菌の生活環

細胞性粘菌は森の落ち葉の下などに生息し多細胞体形成を行う真核微生物の一種で、その一生は非常に単純です(右図を参照)。胞子から発芽した粘菌アメーバ(単細胞)は土壌中のバクテリアをエサとして増殖し、飢餓状態になると10万個程の細胞が走化性運動により集合し多細胞体となり、最終的にカビに良く似た淡黄色の子実体(胞子塊と柄細胞より成る1-2mm程の構造体)を形成する。この細胞性粘菌の一生はごく短く、わずか24時間で完了すること、ゲノムサイズが小さいにも関わらず高等動物と同じ遺伝子を有し、全ゲノム解読完了、遺伝子破壊等の分子生物学的手法の適用や簡便性が高いことから、微生物として位置づけられながら多細胞生物のモデルとして重要な研究材料の一つになっています。さらに、粘菌細胞は通常半数体であるため遺伝子破壊株作製が極めて簡単なことや、近年全ゲノム解析(6つの染色体:約34Mbp)やcDNA解析などの基盤整備が進展したことも手伝って、発生学や細胞生物学のモデル生物として世界的に研究が進められ顕著な成果が蓄積しています。


細胞性粘菌の発生


細胞性粘菌の走化性運動

走化性運動とは細胞外の物質に対して、正あるいは負の走性運動を行うことを指します。細胞性粘菌の場合には、増殖期に餌であるバクテリアから放出される葉酸に対して走化性を示すこと、発生期においては細胞性粘菌自身から分泌されるcAMPに対して走化性を示すことが知られています。 ですから細胞性粘菌にとって走化性運動は、生死を、あるいは運命を決める重要な機能と言えるでしょう。


cAMPに対する走化性反応

走化性不能株において見られるソリトン様細胞集団運動

ソリトン波とは、衝突しても互いに波形が変わらずに通りぬける不思議な性質を もつ孤立した波のことで、さまざまな非線型現象として現れることがわ かって います。たとえば水深の浅い水面で生じる波のなかには、孤立した状態で塊と なって速度と波の形状を変えることなく遠くまで伝わるものが見ら れます。ま た、そのような孤立波は、別の孤立波を追い抜いてもそれぞれの振幅、速度が変 化しません。このような粒子的な性質を持つ波はソリトン波 と呼ばれ、数学、 物理学の広い分野で注目されています。  これまで細胞運動のレベルにおいてソリトン現象が存在するとは想像すらされ ていませんでした。桑山准教授の研究グループは、多細胞運動としては 世界で 初めて、細胞性粘菌の突然変異株において、孤立波の形状をとって移動する細胞 塊でソリトン現象を観察しました。  観察した細胞の塊は、ぶつかり合っても互いの形を崩すことなく通り抜けてし まうことから、同質の細胞の塊であっても互いに独立(孤立)して粒子 状に存 在しており、衝突の前後でそれぞれの形を記憶し元の形を維持します。今後、こ のぶつかっても通り抜けるという多細胞運動の不思議な特徴をも たらしている 未知のメカニズムが解明されれば、生物の器官形成や個体形成といった形作りの メカニズムに新しい視点が得られることが期待されます。







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