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学生による教員紹介

生物学類の先生はどのような研究をしているのでしょう?
学生たちがインタビューに行きました!

単なる「壁」ではない細胞壁の機能

岩井宏暁 准教授
 中学理科でも習う植物細胞壁。その身近な構造を切り口に、植物の発生・生理学の研究を進めている岩井宏暁先生にお話をききました。後輩を親身になって想う生物学類卒業生としての一面も垣間見えました。

細胞壁が植物細胞の形を決める
 わたしたちが細胞壁を最初に知るのは中学校の授業ではないでしょうか?教科書には、細胞壁と浸透圧の関係を示す図が載っています。細胞内に水が入ることで細胞が大きくなり、細胞壁を押す膨圧が生じます。気孔が閉じて膨圧が高まる夜間に、植物は成長するとも書いてありました。しかし、中学校から学んできた細胞壁のしくみとは少し違う、新たな発見がなされているようです。岩井宏暁准教授によると「最近の植物学の研究では、膨圧が生じていない昼間にも植物は成長しているのではないかと考えられています」とのことです。  細胞壁について説明するとき、岩井准教授は風船の例をよく用いるそうです。風船に吹き込む息の強さが同じでも、風船の種類によって膨らみやすさは異なり、この違いには、ゴムのかたさが関係します。この風船の膨らむ様子と比べると、植物では、息を吹き込む力が吸水力、ゴムのかたさが細胞壁の強度に対応します。つまり、植物の成長には、細胞壁の構造や強さが関わります。風船には、ウサギやハートの形もありますが、これらの風船では、ゴムのかたさや量が部分的に変えられていて、量や質の差が、形を決めているのです。このような風船の例から理解できる細胞壁の様子とは、岩井准教授によると、「細胞壁の量や質をみれば、植物細胞がどのように形作られているかが分かるということです」とのことです。

細胞壁から植物発生学・生理学を考える
 植物がもつ際立った特徴は何か。教科書で学び、誰もが知っている答えは「細胞壁」です。岩井准教授は、細胞壁を切り口にして、植物がどのように形作られるのかを考える「発生学」、どのようにいきるのかを考える「生理学」について研究を行っています。
岩井准教授は、ご自身の研究の面白さを次のように述べられています。

“「発生学」の角度からみれば、細胞壁は形作りを担う表現装置です。植物細胞は細胞壁によって完全に分断されているのではなく、原形質連絡でつながっています。隣接する細胞は互いに物質のやりとりができます。一方、植物は光合成に必要な空気を取り込むために空間を必要とします。植物細胞は、互いに強く結合する一方で、隙間を作るために離れなければなりません。この形作りを担っているのが細胞接着であり、その主役が植物では細胞壁になります。細胞壁にはいろいろな種類があり、種類が変わると物性もかわります。この違いが細胞接着の強い部位と弱い部位を生み、植物の形作りを可能にしています。“

 さらに、「生理学」の角度からみて、岩井准教授が細胞壁に注目している理由がもうひとつあります。それは環境に対する細胞壁の反応のしくみの面白さからです。岩井准教授は、「教科書で環境応答についてのページをひらくと、そのストーリーは当然のように細胞膜からはじまります。しかし、乾燥や低温などの環境変化に最初に接しているのは細胞壁であり、環境応答にも関与していると考えました。実際に、細胞壁を変化させると、環境応答にも違いがみられます」と、細胞壁が脇役になりがちな環境応答の研究に、それを主役としてとらえる新しい視点から挑んでおられます。

トマトの実は柔らかいのになぜ形が崩れないのか?
 次に、細胞壁の変化について、トマトを実験の題材にした面白い研究もご紹介しましょう。トマトの果実が成熟するとき、「壁」である細胞壁の分解により、果実が柔らかくなるとされていました。しかし、その考え方に岩井准教授は疑問を持ちました。「柔らかくなった果実が単なる分解物であるという点に疑問がありました。次世代につながる大切な種子を細胞壁の分解という過酷な状況にさらすことにも違和感があったのです」と、岩井准教授は研究の出発点を思い返していました。
 トマト果実の細胞壁は、半分をペクチンという多糖類が占めます。ある研究で、ペクチンの分解を抑制したトマトでは、果実の軟化は遅れましたが、完全には抑制されませんでした。そこに注目した岩井准教授は、トマトの果実の成熟では「細胞壁の分解とは異なる、他の仕組みがあるはず」と考えたのです。
 そこで、岩井准教授は、ペクチンだけではなく、細胞壁の強度に関わっているヘミセルロースという多糖類に注目しました。すると、成熟に伴って、ヘミセルロース分解酵素は減り、ヘミセルロース量は増えていたのです。また、ふとしたことがきっかけでヘミセルロースについての発見が深まっていきました。トマトの軟化過程の実験では、通常は果実をひとつの組織として、丸ごとすりつぶしていましたが、ある日、岩井准教授が学生実習でトマトの果実を使った実験をしたとき、「皮はとりますか?」と質問されたのです。この学生さんの素朴な疑問もあり、皮と果肉を分けるなどして組織をより細分化し、細胞壁の変化を調べたところ、果肉の部分にあたる中果皮ではキシログルカン、外との境になる外果皮や内部の液状部分との境になる内果皮ではキシランという、異なるヘミセルロースが増えていました。このような研究を通じて、「トマトの軟化では、単に細胞壁の分解が起きているのではなく、形状を維持するためのかたさと柔らかさの両方を備えた新たな細胞壁に作りかえられている」ということを、岩井准教授は明らかにしたのです。






















[上図] トマトは成熟に伴って柔らかくなり、色は緑から赤へと変化する。
[下図] 成熟したトマトの断面。免疫組織化学染色により、キシランを検出した。矢印で示した外果皮と内果皮でキシランが増えている。

多くの出会いが研究の支えに
 「色々なひとと、様々な意見をつきあわせることで生まれるアイディアを大切にしています」と、岩井准教授は研究での出会いを大切にしています。トマトの研究のエピソードからもわかるように、実習中の学生さんの一言もいい意味で真に受けて、学類生、卒研生、大学院生の皆さんと「一緒に日々の研究を育てている」と考えておられます。岩井准教授は、学生の指導について以下のようにお話くださいました。

“もちろん学生には研究の方向性は示します。しかし、少しくらいそこから逸脱してもいいと考えています。教員としての役割は、学生さんが能力を100%発揮できる環境を与えることだと思います。がっちりと型にはめ込んでしまうと一番大事なそのひとの個性が失われてしまいます。自分ひとりでは万能でなく、これからも学生さんを含めた色々なひとと研究を行いたいと思います。”

 岩井准教授も、ご自身の研究生活を振り返ってみると、学類生のときから、本当に色々な先生にお世話になったそうです。「行く先々で、その先生のものの見方や考え方を頭に入れてきました。特に印象に残っているのは、筑波大学の植物生理学研究室を立ち上げた藤伊先生の“教科書を信じ込んではいけないよ”ということばです」と、岩井准教授は振り返りました。当時の恩師の言葉から、柔軟な思考と自分で考えることの大切さを考えるきっかけをもらい、その言葉が今の教員生活にも生かされているそうです。


取材を終えて (筑波大学大学院 博士前期課程1年 遠藤智之)
 先生の研究の出発点がとても多彩で、常にアンテナを張り、柔軟に考えることの重要さを実感しました。「学生であると同時に大学の後輩でもある」と仰っており、学生さんを大切に思う気持ちがひしひしと伝わってきました。学類生や高校生のみなさんには、ぜひ積極的に先生のお話を聞きに行っていただきたいです。研究そのものだけでなく、発見までのエピソードに触れることで、研究をより身近なものに感じられるのではないでしょうか。
 PROFILE

岩井宏暁 准教授
筑波大学 生命環境系 植物生理学研究室
筑波大学生物学類卒。理学博士。植物の大きな特徴である細胞壁に注目し、植物の発生や環境応答の研究を行う。
【取材・構成・文 筑波大学大学院 博士前期課程1年 遠藤智之 】
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