維管束系
vascular system

維管束系は維管束(vascular bundle)からなり、水や無機養分、有機養分の通道や、植物体の機械的支持にはたらいている複合組織であり、維管束植物(シダ植物、種子植物)の特徴でもある。維管束植物は維管束をもつことによって100mもの高さに成長し、四方に茎や葉を広げることができる。維管束は2種類の複合組織、木部(xylem)と篩部(phloem)からなる。

木部

木部(xylem)は複合組織であり、管状要素(tracheary elements)や木部繊維(xylem fiber)、木部柔細胞(xylem parenchyma cell)からなる。これらの細胞は木部要素(xylem element)とよばれる。

導管(vessel)(道管と書くことも多い)
管状要素である導管細胞(vessel cell, 導管要素 vessel element)からなる通道組織であり、水や無機養分を通道させる働きを担っている。導管どうしは両端の穿孔でつながっている。センリョウ科やヤマグルマ科などを除く多くの被子植物や一部のシダ植物、裸子植物に見られる。
仮導管組織(tracheid tissue)
管状要素である仮導管(tracheid)からなる通道組織であり、水や無機養分を通道させる働きを担っている。仮導管どうしは側壁の壁孔でつながっている。ほとんどの維管束植物に見られる。
木部繊維組織(xylem fiber tissue)
木部に存在する繊維である木部繊維(xylem fiber)からなる厚壁組織であり、植物体に機械的支持を与えている。木部繊維は仮導管に類似しているが、有縁壁孔をもった仮導管とは異なり壁孔が単壁孔になっている。
木部柔組織B>(xylem parenchyma)
木部における唯一の生細胞である木部柔細胞(xylem parenchymatous cell)からなる柔組織であり、有機養分の貯蔵などにはたらいている。ときに細胞壁が肥厚し、単壁孔をもった厚壁柔組織となる。一次木部では軸方向に長い細胞が多いが、二次木部の場合には縦に長い細胞からなる紡錘形柔組織(fusiform parenchyma, 軸方向柔組織 axial parenchyma)と等径的な細胞からなる放射組織(ray, 放射柔組織 ray parenchyma)がある。紡錘形柔組織(軸方向柔組織)には、導管に付随する随伴柔組織(paratracheal parenchyma)と付随しない非随伴柔組織(apotracheal parenchyma)がある。

篩部

篩部(師部 phloem)は複合組織であり、篩要素(sieve elements)や篩部繊維(phloem fiber)、篩部柔細胞(phloem parenchyma cell)からなる。これらの細胞は篩部要素(sieve element)とよばれる。

篩管(sieve tube)(師管と書くことも多い)
篩要素である円柱形の篩管細胞(sieve tube ell, 篩管要素 sieve tube element)からなる通道組織であり、有機養分を通道させる働きを担っている。篩管細胞の両端には篩孔(sieve pore)をもった師板(sieve plate)が存在し、これを通じて連絡している。篩管細胞に接して原形質に富んだ伴細胞(companion cell)が存在し、物質輸送を助けている。被子植物やマツバラン類に見られる。
篩細胞組織(sieve cell tissue)
篩要素である細長い篩細胞(sieve cell)からなる通道組織であり、有機養分を通道させる働きを担っている。篩細胞どうしは側壁の篩孔でつながっている。伴細胞を欠く。シダ植物や裸子植物に見られる。
篩部繊維組織(phloem fiber tissue)
篩部に存在する繊維である篩部繊維(phloem fiber)からなる厚壁組織であり、植物体に機械的支持を与えている。
篩部柔組織(phloem parenchyma)
篩部柔細胞からなる柔組織であり、有機養分の貯蔵などにはたらいている。二次篩部の場合には二次木部と同様、縦に長い細胞からなる紡錘形柔組織と等径的な細胞からなる放射組織がある。

さまざまな維管束型

木部と篩部はふつう組になり、種によって一定の組み合わせで配列している。その組み合わせには以下のような諸型がある。

並立維管束(collateral vascular bundle)
木部が内側(向軸側)、篩部が外側(背軸側)にならんで対になっているもの。種子植物の茎や葉に極めてふつうにみられ、ウラボシ類(薄嚢シダ)やトクサ類にも例がある。
倒並立維管束(倒立維管束 obcollateral vascullar bundle)
木部が外側(背軸側)、篩部が内側(向軸側)にならんで対になっているもの。内側にある篩部を内部篩部(internal phloem, intraxylary phloem)という。双子葉植物の髄や皮層にある維管束がしばしばこのタイプの維管束をもつ。
複並立維管束(両立維管束 bicollateral vascular bundle)
木部か篩部の一方が内外両側にあり、他方をはさんでいるもの。
外篩複並立維管束(ectophloic bicollateral vascular bundle)
内外両側に篩部があって木部をはさんでいるもの。ウリ科、キョウチクトウ科、ナス科に見られる。
外木複並立維管束
内外両側に木部があって篩部をはさんでいるもの。例は知られていない。
包囲維管束(concentric vascular bundle)
木部か篩部の一方が他方を包んでいるもの。
外篩包囲維管束(amphicribral concentric vascular bundle)
篩部が木部を包んでいるもの。シダ類の茎や葉に一般的で、サクラソウ属(サクラソウ科)の葉柄などにも見られる。
外木包囲維管束(amphivasal concentric vascular bundle)
木部が篩部を包んでいるもの。ショウブ科やアヤメ科、カヤツリグサ科など単子葉植物の根茎に見られる。
放射維管束(radial vascular bundle)
篩部や木部が放射状にならんでいるもの。根にふつうに見られるが、茎ではごくまれ。

中心柱

茎や根において、皮層より内側の領域を中心柱(stele, central cylinder)とよび、維管束はふつうこの中に存在する。中心柱の中における維管束の配置を中心柱型(stelar type)という。皮層と中心柱の境界は内皮(皮層の最内層)であるが、種子植物の茎ではふつう内皮が確認できないため、中心柱の範囲を正確に決めることはできない。

維管束型の多様性は進化的な流れを反映したものと考えられ、それをもとにした系統学的な論議を中心柱説(stelr theory)という。

原生中心柱(protostele)
中央部に木部が存在し、その周囲に篩部が存在するもの。さらに外側を内皮が包んでいる。ふつう原生木部は後生木部の外側にある(外原型)。
単純原生中心柱(単中心柱 haplostele)
中央に円形の木部が存在し、その周囲に篩部があるもの。最初期の維管束植物である古生マツバラン類や、ウラボシ類(薄嚢シダ)のウラジロ、カニクサ、シシラン、スジヒトツバなどに見られる。
有髄原生中心柱(medullated protostele)
木部の中央部に柔組織(髄)が存在する原生中心柱。
放射中心柱(actinostele)
木部が星状になって何本かの腕を放射状に出し、その腕の間に篩部が存在するもの。全ての維管束植物の根に見られる。
板状中心柱(plectostele)
木部が板状になって平行にならび、その間に篩部が存在するもの。ヒカゲノカズラ綱に見られる。
退行中心柱(hysterostele)
原生中心柱に似るが、二次的に単純化したと思われる中心柱。内皮を欠き、維管束は内原型。マツモ(マツモ科)やスギナモ(スギナモ科)、フサモ(アリノトウグサ科)などの水生植物に見られる。
管状中心柱(siphonostele)
管状の維管束が存在し、内外を内皮で包まれているもの。
両篩管状中心柱(amphiphloic siphonostele)
管状の木部の内外に篩部が存在するもの。ウラボシ綱ではシシラン科やヤブレガサウラボシ科、ホウライシダ科の一部、イノモトソウ科の一部、デンジソウ科など多くに見られる。
外篩管状中心柱(ectophloic siphonostele)
管状の木部の外側に篩部が存在するもの。ハナヤスリ科(マツバラン綱)やヤマドリゼンマイ(ウラボシ綱)などに見られる。
網状中心柱(dictyostele)
管状中心柱に多数の孔(葉隙)ができて全体が網状になったもの。分岐した個々の維管束を分柱(meristele)という。分柱はふつう両篩包囲維管束であり、内皮で包まれる。ウラボシ綱(薄嚢シダ)のシノブ科、チャセンシダ科、シシガシラ科、オシダ科、ヒメシダ科、ウラボシ科などに多く見られる。
多環中心柱(polycyclic stele)
管状中心柱や網状中心柱において内側にさらに第2,第3の維管束管があるもの。管状の場合、2環管状中心柱(dicyclic siphonostele)、3環管状中心柱(tricyclic siphonostele).....といい、網状の場合、2環網状中心柱(dicyclic dictyostele)、3環網状中心柱(tricyclic dictyostele).....という。ワラビでは2環網状中心柱が見られる。
真正中心柱(eustele)
多数の並立維管束が環状にならんだもの。個々の維管束が複並立維管束であることもある(カボチャなど)。種子植物(単子葉類を除く)の茎に一般的に見られる。地下茎では外立内皮が見られることがあるが、地上茎では内皮は極めてまれ。トクサ(トクサ科)やウマノアシガタ(キンポウゲ科)の根茎の真正中心柱には自立内皮があるので特に分裂真正中心柱(separeted eustele)とよばれる。
散在中心柱(不整中心柱 atactostele)
多数の並立維管束が不規則に散在するもの。ふつう内皮を欠く。単子葉類の茎に一般的に見られる。

維管束の発生

シュート頂分裂組織根端分裂組織から組織が分化していく中で、分裂能を残した残存分裂組織(residual meristem)から前形成層(procambium)が分化してくる。前形成層の細胞は細長く、原形質に富んでいる。

種子植物の茎の場合、最初に前形成層において最も外側の部分に篩要素が分化し、後にその内側に篩部のさまざまな要素が分化してくる。最初に分化する篩部を原生篩部(protophloem)、後に分化する篩部を後生篩部(metaphloem)という。一方、前形成層の最も内側に管状要素が分化し、続いてその外側に木部のさまざまな要素が分化してくる。最初に分化する木部を原生木部(protoxylem)、後に分化する木部を後生木部(metaxylem)という。

原生篩部・後生篩部や原生木部・後生木部の位置関係は器官によって、また植物群によってさまざまであり、以下のような変異が見られる。

内原型(endarch)
最初に内端にある部分が成熟し、後に外側が成熟するタイプ。種子植物の茎における木部に見られる。
中原型(mesarch)
最初に中間にある部分が成熟し、後に内側と外側が成熟するタイプ。多くのシダ類の茎における木部に見られる。
外原型(exarch)
最初に外端にある部分が成熟し、後に内側が成熟するタイプ。全ての維管束植物の根の木部と篩部、マツバラン属やヒカゲノカズラ綱の茎の木部、種子植物の茎の師部に見られる。
心原型(centrarch)
1本の維管束しかない植物において、最初に中心にある部分が成熟し、後にその周辺部が成熟するタイプ。化石植物のみに知られ、リニア(Rhinia)などに見られる。