植物の細胞
Plant cells

植物は私たちと同じ多細胞生物であり、多くの細胞 (cell) からできている。陸上植物の細胞は、後生動物 (多細胞動物) と同じ真核細胞 (eukaryotic cell) であるが、動物の細胞とくらべるといくつか違いがある。また広い意味での植物の中にもさまざまな多様性がみられる。

陸上植物の細胞は分裂組織では小形 (直径5〜10 µm) であるが、成熟した細胞は一般的な後生動物の細胞より大きく、直径 50〜250 µm ほどのものが多い。

細胞壁

陸上植物の細胞は、せルロース (cellulose、β-1,4-D-グルカン) を主成分とした細胞壁 (cell wall) で囲まれている。細胞壁の存在は、陸上植物と多細胞動物の間の大きな違いの1つである。セルロースは直鎖状の高分子であり (図1)、同一方向に列んだ多数の分子が水素結合を介して束になることでセルロース微小繊維 (microfibril) を形成している。セルロース微小繊維はふつう互いに平行に列んで細胞壁の骨組みとなっている。セルロース量は植物体乾燥重量の1/3〜1/2に達し、地球上の有機炭素の約半分はセルロースであるといわれる (年間生産量約1,000億トン)。セルロースは綿や紙などの形で人間にも身近な存在である。人間はセルロース分解酵素を持たないため、直接セルロースを栄養源とすることはできない。セルロース合成酵素は細胞膜上でロゼット型の複合体 (terminal comples; TC) を形成しており、細胞質側から供給される UDP-グルコースを原料にしてセルロースを合成し、細胞外に分泌する。
セルロースについて

セルロース微小繊維の骨格は、ヘミセルロース (hemicellulose) (表1)、ペクチン (pectin) (表2)、タンパク質などからなるマトリックス (基質 matrix、基質ゲル matrix gel) の中に埋め込まれている (図2)。最近では、ヘミセルロースやペクチンなど非セルロース多糖を、マトリックス多糖 (matrix polysaccharide) と総称することも多い。タンパク質としてはエクステンシンのように細胞壁維持に働くものや、細胞壁多糖を分解して細胞の拡大成長に働くもの、細胞間認識に働くものなどが存在する。

ヘミセルロースについて
ペクチンについて
細胞壁糖タンパク質について
細胞壁酵素について

その他にも、細胞の種類によって、細胞壁にはさまざまな物質が蓄積している。導管細胞繊維などの二次壁にはフェノール化合物であるリグニン (lignin) が多く蓄積し、細胞壁の機械的強度を増している。このような細胞壁を木化 (リグニン化 lignification) したという。リグニンはセルロースに次いで地球上に多い有機炭素化合物であるといわれる。また維管束などを取り囲む内皮細胞同士の接点 (カスパリー線) やコルク細胞には不飽和脂肪酸であるスベリン (suberin) が蓄積し、水や病原菌の侵入を防いでいる。さらに表皮細胞において外界に接する細胞壁には、不飽和脂肪酸であるクチン (cutin) や脂肪酸エステルのワックス (蝋 wax) が蓄積し、クチクラ層 (cuticular layer) を形成している (クチクラ化 cuticularization)。クチクラ層もまた、水の蒸発や病原菌の侵入などを防いでいる。表皮以外でも、植物体内において空気と接する細胞壁には薄いクチクラ層 (内部クチクラ interal cuticle) が存在する。ほかにも篩管細胞の連結部 (篩孔) が形成される際には β-1,3-グルカンであるカロース (callose) が重要な働きを演じ、篩管細胞が損傷を受けた際にもカロースによって篩孔がふさがれて栄養分の損失を防ぐ。また病原菌による壊死細胞周辺の細胞の細胞壁にもカロースが蓄積され、病原菌の感染拡大を妨げる。

陸上植物の細胞壁には、一次壁と二次壁があり、細胞壁同士は最外層の中葉で接着している。

一次壁 (primary wall)
一次壁は細胞が分裂してすぐにできる細胞壁である。一次壁はマトリックスの割合が多いため、伸縮性に富み、細胞の拡大成長・伸長成長にともなって細胞壁をある程度引き延ばすことができる。組成比は一般的にセルロース25〜30%、ヘミセルロース25%、ペクチン30%、その他20%ほどである。また一次壁は水含量が大きい (重量比で〜60%)。ミクロフィブリルの並びが内側では細胞長軸に直角であったものが外側に行くにつれ平行になるタイプ (マルチネット構造) と、直角の層と平行な層が互い違いに配列するタイプ (交差多層構造) がある。マルチネット構造は茎や根の皮層細胞で、交差多層型は茎の表皮細胞などに見られる。ふつう厚さ0.1〜1 µmほどだが、厚角細胞篩管細胞表皮細胞などでは一次壁がかなり厚くなることが多い。
二次壁 (secondary wall)
拡大成長が終わった細胞において、一次壁の内側に形成される細胞壁。特に管状要素 (導管細胞や仮導管) や厚壁細胞などで顕著である。一次壁にくらべて強固で可塑性が低い。セルロースが一次壁より多く (約60%) 、ミクロフィブリルが数層 (ふつう3層) に列び、異方性が強い。またリグニンの蓄積によって機械的強度をさらに増している。二次壁は一次壁とは異なり、ペクチンやタンパク質含量が少なく、ヘミセルロースではキシランのような直鎖状分子の割合が多い。
中葉 (middle lamella)
隣接する細胞壁同士が接するところ、つまり一次壁の外側に存在し、ペクチンを主成分とする。中層または細胞間層 (intercellular layer) ともいう。細胞間接着などに関わっている。

細胞壁は外界からの異物の侵入を防ぐと共に、細胞を一定の形に保つ働きを果たしている。水など浸透圧の低い液体 (低張液) にさらされることによって細胞は膨らむ力、つまり膨圧 (turgor pressure) が生じ、これを細胞壁で押さえつけることによって組織の機械的支持力が得られる (だから水分が足りなくなると萎れてしまう)。また膨圧がある状態で細胞壁 (の一部) が細胞壁タンパク質の働きでゆるむことによって細胞の拡大成長が可能になる。

上記のようにリグニンやスベリン、クチン、蝋などが蓄積しない限り、細胞壁は水や低分子の物質を自由に通すことができる。このような細胞壁を含めた細胞外の経路を通じた物質輸送は、アポプラスト輸送 (apoplastic transport) とよばれ、原形質連絡を通じた原形質間の輸送であるシンプラスト輸送 (synplastic transport) と同様に植物体の物質輸送に重要な働きを果たしている。

細胞壁は静的な存在であり、非生物的な構造だと考えられがちである。しかし実際には細胞壁では活発な代謝が行われており、植物の本質的な生理機能に不可欠な存在である。ただし植物細胞の生存自体に細胞壁は細胞壁は必要不可欠ではない。花粉内の精細胞のように細胞壁を欠く細胞も存在するし、人為的に細胞壁を除去してつくったプロトプラスト (protoplast) は分裂を繰り返して植物体を再生することができる。

陸上植物以外の植物 (藻類) では細胞外皮の構造は極めて多様である。細胞壁を欠くものや鱗片 (有機質、珪酸質、石灰など) で覆われるもの、珪酸質やβ-1,3-キシラン、β-1,4-マンナン、ペプチドグリカンなどできた細胞壁をもつものがある。またセルロース性の細胞壁をもつものも多いが、合成酵素複合体の形態には多様性が見られる。

細胞壁について
図1. セルロース
図2. 細胞壁の構造モデル. C (青) = セルロース, G (緑) = 糖タンパク質, H (黄) = ヘミセルロース, P (赤) = ペクチン.
キシログルカン (xyloglucan)  
β-1,3-β-1,4-グルカン
グルクロノアラビノキシラン (glucuronoarabinoxylan)  
キシラン (xylan)
   =アラビノキシラン (arabinoxylan ) とグルクロノキシラン (glucuronoxylan)
グルコマンナン (glucomannan)
ガラクトマンナン (galactomannan)
アラビノガラクタンII (arabinogalactan II)
表1. さまざまなヘミセルロース
ホモガラクツロナン (homogalacturonan, HG)  
ラムノガラクツロナン I (rhamnogalacturonan I, RG-I)
ラムノガラクツロナン II (rhamnogalacturonan II, RG-II)  
アピオガラクツロナン (apiogalacturonan)
アラビノガラクタン (arabinogalactan)
アラビナン (arabinan)
ガラクタン (galactan)
表2. さまざまなペクチン (これらは互いに共有結合して巨大な分子を形成しているらしい)

細胞膜と原形質

陸上植物も含めて真核性植物の細胞は、一般的な真核生物と同じくさまざまなオルガネラ (細胞小器官 organelle) をもっている。広義の植物の中で藍藻 (シアノバクテリア) のみは原核生物であり、オルガネラはなく、細胞全体が葉緑体と同じような構造をしている。

細胞膜 (cell membrane) = 原形質膜 (plasma membrane)
  細胞を取り囲む、厚さ7〜10 nmほどの脂質二重層 (lipid bilayer) からなる膜。細胞膜の主成分はリン脂質などの極性脂質 (分子内に疎水性部分と親水性部分をもつ脂質) であり、気体や疎水性物質以外はほとんど透過させない。そのため細胞内は外界からは独立した区画として存在し得るが、細胞が生きていくためには外界との物質・情報のやりとりが必要である。細胞膜をはさんだ物質や情報のやりとりは、細胞膜に内在または表在する膜タンパク質 (ポンプやチャネル、キャリアー) が担っている。また、膜タンパク質を介した移動では高分子物質の輸送は不可能であり、この場合はエクソサイトーシスやエンドサイトーシスのような膜動輸送 (cytosis) によって行われる。色素体ミトコンドリアゴルジ体液胞のようなオルガネラも細胞膜と同様の脂質二重層に囲まれており、細胞膜と併せて生体膜 (biomembrane, biological membrane) と総称される。ただし脂質成分、タンパク質の種類やタンパク質含量はそれぞれ異なっている。細胞膜の内側の細胞質基質やオルガネラをまとめて原形質 (protoplasm) という。
(nucleus, pl. nuclei)
  遺伝物質であるDNAを貯蔵しているオルガネラであり、所々に直径50 nmほどの孔 (核孔、核膜孔 nuclear pore) が空いた2重膜 (核膜 nuclear membrane) で囲まれている。核内に占めるDNAの割合はほぼ一定 (3%以下) であるため、DNA量が多い種では核が大きい。ゲノムサイズはシロイヌナズナ (アブラナ科) で約 125 Mbp、クロユリ (ユリ科) で約 50,000 Mbp (50 Gbp) と変異が大きい。DNAはヒストン (histone) などのタンパク質と結合してヌクレオソーム (nucleosome) という基本構造をつくり、それが折り畳まれて染色質 (クロマチン chromatin) を形成している。染色質はDNA転写が盛んなユークロマチン (euchromatin) とそれが不活性なヘテロクロマチン (heterochromatin) に分けられ、これにはヒストンのメチル化やアセチル化が関わっているらしい。染色質は核分裂時には凝集して染色体 (chromosome) になるが、藻類の中には染色質が常に凝集しているものもある (渦鞭毛植物など) 。核膜の内側は核ラミナ (nuclear lamina) によって裏打ちされており、染色質はこれを介して核膜と結合している。また核内にはリボソームの合成場所である (核小体 nucleolus, pl. nucleoli) がある。陸上植物の仁には nucleolar cavity とよばれる腔所がある。ふつう陸上植物では、1細胞に核は1個 (単核) だが、被子植物の胚嚢中にある中央細胞はふつう2個の核 (極核) をもち、トウダイグサ (トウダイグサ科) などの単乳管の細胞は多核体 (coenocyte) になっている。原形質の中で核を除いた部分を細胞質 (cytoplasm) とよぶ。
色素体 (plastid)
  陸上植物では2枚の膜で囲まれたオルガネラ。基本的には光合成を行う器官であるが、発達段階・構造・機能に多様性が見られ、いくつかのタイプに分けられる。
  光合成を行うものは葉緑体 (chloroplast) とよばれ、クロロフィルを主とした光合成色素が存在し、扁平な袋であるチラコイド (thylakoid) が多数重なったグラナ (grana) などの内膜系が発達している。チラコイド膜には光化学反応の酵素が存在し、NADPHを生成すると同時にチラコイド内腔にプロトンを送り込んでプロトン勾配を形成し、これによってATPを生成する。内膜系以外の空間はストロマ (stroma) とよばれ、カルビン回路 (Carvin cycle) の酵素や原核生物型のリボソームなどが存在し、また合成されたデンプンが貯蔵されている。陸上植物ではツノゴケ類を除いてふつう1細胞に葉緑体は多数存在する。ツノゴケ類の場合にはふつう1細胞に葉緑体は1個であり、さらに葉緑体の中にはピレノイド (pyrenoid) とよばれるタンパク質の塊が存在する。ピレノイドの主成分は光合成酵素のルビスコ (RuBisCO) であり、藻類には広く見られるが、陸上植物ではツノゴケ類のみに存在する。
  分裂組織などに存在する未分化の色素体は小さく、チラコイドなども未発達であり、前色素体 (proplastid、エオプラスト eoplast) とよばれる。そこから葉緑体へと分化し始めた色素体は前葉緑体 (エチオプラスト ethioplast) という。また篩管要素にはタンパク質を含んだ特殊な色素体が存在することがある。クロロフィル以外の色素 (カロテンなど) を集積した色素体は有色体 (chromoplast) とよばれ、花弁果実の着色などに関与している。色素を含まない色素体は白色体 (leucoplast) と総称され、デンプン貯蔵に特化したもの (アミロプラスト amyloplast) やタンパク質を貯蔵するもの (プロテノプラスト protenoplast)、脂肪酸合成・貯蔵を行うもの (エライオプラスト elaioplast) などがある。光合成能を欠く寄生植物や腐生植物では葉緑体が形成されないが、色素体は白色体の形で存在する。
  藻類の葉緑体はその包膜の数 (2枚、3枚、4枚) やチラコイドの重なり方、光合成色素組成などの点で多様である。
  色素体の存在は植物細胞の特徴であり、シアノバクテリア (藍藻) の共生に起源をもつ。その名残として色素体は独自のゲノム (色素体ゲノム,色素体DNA)、タンパク質合成系 (70S リボソーム) をもっており、自身の分裂によってのみ増殖する (無から新生されることはない)。色素体DNAはふつう 100〜200 kb ほどの環状DNAであり、100種類ほどの遺伝子をコードしている。
ミトコンドリア (mitochondrion, pl. mitochondria)
  2枚の膜で囲まれたオルガネラであり、糖を酸化的に分解してエネルギーを得る酸素呼吸の場となっている。陸上植物の細胞中にはふつう多数のミトコンドリアが存在して変形・融合・分裂を頻繁に行っており、活性の高い非光合成組織では細胞容積の20%を占めることもある。内膜が内部に突出してクリステ (crista, pl. cristae) を形成している。クリステを含めて内膜には電子伝達系の酵素が存在し、内膜を挟んでプロトン勾配を形成し、それを使ってATPを合成する。陸上植物を含む緑色植物は多細胞動物と同じく平板状のクリステ (flat cristae) をもつが、ミドリムシ (ユーグレナ植物) のクリステは盤状 (discoid) 、コンブ (不等毛植物) のクリステは管状 (tubular) である。内膜に囲まれた空間は基質 (matrix) とよばれ、クエン酸回路 (citric acid cycle, TCA回路 tricarboxylic acid cycle、クレブス回路 Klebs cycle) や脂肪酸代謝の酵素、原核生物型のリボソームなどが存在する。また陸上植物では、ミトコンドリアは光呼吸にも関わっている。
  ミトコンドリアは基本的に全ての真核生物に存在し、α-プテオバクテリア (真正細菌) の共生に起源をもつ。そのためミトコンドリアも独自のゲノム (ミトコンドリアDNA,ミトコンドリアゲノム)、タンパク質合成系 (70S リボソーム) をもち、自身の分裂によってのみ増殖する。多細胞動物のミトコンドリアDNAがほぼ例外なく 17 kb ほどの小さな環状DNAであるのに対し、陸上植物では変異が大きい。コケ植物では 100〜180 kb ほどで遺伝子組成などの点でも真核生物の原始形をとどめているが、被子植物では 200〜2500 kb と巨大であり、多量の反復配列を含む。
ペルオキシソーム (peroxysome)
  1枚の膜で囲まれた直径 0.2〜1.5 µm ほどの小さなオルガネラであり、多量の酵素を含んでいる。ミクロボディー (マイクロボディー microbody) とよばれることもある。さまざまな物質の酸化反応に関与し、その過程で過酸化水素 (H2O2) が発生するが、ペルオキシダーゼ (peroxydase) やカタラーゼ (catalase) によってこれを分解する。陸上植物においてペルオキシソームは脂肪酸分解、活性酸素除去、分岐アミノ酸の分解などに働いているが、組織によって特異的な働きを担っていることもある。例えば子葉や貯蔵組織では脂肪酸の分解 (β酸化、グリオキシル酸回路) に関与するグリオキシソーム (glyoxysome) がある。緑葉では葉緑体ミトコンドリアと協調して光呼吸 (グリコール酸経路) に関与する緑葉ペルオキシソームがある。またマメ科の根粒には、固定された窒素からウレイドを合成するために特化したペルオキシソームがある。このようなペルオキシソームの分化は光条件などによって柔軟に変換する。ペルオキソームは独自のゲノムはもたないが、自身の分裂によってのみ増殖するらしい (ただし近年,小胞体起源で形成される可能性が指摘されている)。
小胞体 (endplasmic reticulum, ER, pl. endplasmic retiula)
  扁平な袋状や管状の膜系が複雑な網目を形成している構造であり、物質の合成・修飾・輸送や細胞のカルシウムイオン調節などに関わる。核膜は小胞体と連続しており、核膜は特殊化した小胞体領域と考えることもできる。外側に翻訳の場であるリボソーム (ribosome) が付着した粗面小胞体 (rough endplasmic reticulum, rER) は扁平な膜系からなり、液胞ゴルジ体、細胞外で機能するタンパク質の合成と輸送に関わっている。粗面小胞体上のリボソームで合成されたタンパク質は小胞体内腔へ輸送され、COPII小胞とよばれる輸送小胞によってゴルジ体へ運ばれる。一方、リボソームを欠く滑面小胞体 (smooth endplasmic reticulum, sER) はふつう管状の膜系からなり、膜や脂質の合成に関わっている。中性脂質などは小胞体の脂質二重層の間 (疎水性部分) で合成され、膨潤した小胞体膜が切り離されてオイルボディ (oil body, オレオソーム oleosome) になる。粗面小胞体と滑面小胞体は連続しており、また原形質連絡のデスモ小管を介して隣接する細胞の小胞体も連続している。
ゴルジ体 (Golgi body、ゴルジ装置 Golgi apparatus)
  扁平な円盤状の小胞 (ゴルジ嚢, ゴルジ槽 Golgi cistarnae) が積み重なった(陸上植物ではふつう4〜8層)オルガネラ。陸上植物ではタンパク質の修飾・プロセシングやマトリックス多糖の合成を行っており、また液胞や細胞外分泌タンパク質の細胞内輸送における中継基地になっている。陸上植物の細胞中では多数のゴルジ体が散在していることが多く、ディクティオソーム (網状体 dictyosome) とよばれることもある。ゴルジ体には極性があり、小胞体に面してそこから供給を受ける面をシス面 (cis face) または形成面 (forming face)、小胞を分泌して送り出す面をトランス面 (trans face) または成熟面 (maturing face)、さらにその間をメディアル領域(medial)とよぶ。それぞれの部分を構成するゴルジ嚢がシス嚢、トランス嚢、中間嚢である。ゴルジ嚢内には糖修飾酵素などさまざまな酵素が存在するが、これもシス側からトランス側整然と配置されている。ゴルジ体はふつう湾曲しており、凸面がシス面、凹面がトランス面であることが多い。小胞体からタンパク質を含んだ小胞 (輸送小胞) がシス面に供給され、トランス面からゴルジ小胞 (Golgi vesicle) の形で細胞膜液胞に運ばれる。ゴルジ体内での物質移動機構については小胞輸送モデル(ゴルジ小胞によってシス側からトランス側へ嚢間を移動)と槽成熟モデル(嚢自体がシス面からトランス面へ移動)があるが、近年になって酵母(子嚢菌)において後者が正しいことが示された (こちらを参照)。
液胞 (vacuole)
1枚の膜で囲まれたオルガネラであり、この膜 (生体膜) は特に液胞膜 (トノプラスト tonoplast) とよばれ、多数の輸送タンパクが内在する。ふつう液胞膜のプロトンポンプによって液胞内は酸性 (ふつうpH 5.5程度だが、レモンの果実のように極端に酸性なこともある) に保たれている。液胞の数や大きさは多様であるが、一般に成熟した細胞では1つの大きな液胞が存在し、細胞容積の大部分を占めている (中央液胞 central vacuole)。細胞容積の増大は陸上植物における植物体成長の主要要因であるが、これを担っているのは液胞体積の増大である。液胞の内容物はおもに水からなり、糖・有機酸・アルカロイド・色素などの水溶性物質を含むが、ときに不溶性物質も含まれる。液胞は細胞膨圧の調節、貯蔵、分解、廃棄物集積などさまざまな役割を果たしている。物質を貯蔵する液胞を貯蔵液胞 (strage vacuole)、分解活性の高い液胞を分解液胞 (lytic vacuole) とよぶが、中央液胞などは両方の機能を併せ持つ。また老化細胞などに見られる、オルガネラなどを取り込んで分解している液胞を特にオートファゴソーム (autophagosome) とよび、動物細胞のリソソームに相当する。
タンパク質小体 (protein body, protein vacuole, protein granule)
1枚の膜で囲まれ、貯蔵タンパク質 (reserve protein) (表3) を含むオルガネラ。種子の胚乳や子葉に多い。貯蔵タンパク質 (プロラミン) を合成した粗面小胞体から直接形成されたものをタンパク質小体 I (protein body I) とよび、粗面小胞体で合成された貯蔵タンパク質 (グルテリン、グロブリンなど) が液胞に供給されてできたものをタンパク質小体 II (protein body II) とよぶ。液胞への貯蔵タンパク質の供給はゴルジ体を経るものと、直接小胞体から液胞へ供給されるものがある。胚乳の糊粉層細胞に含まれるものは特に糊粉粒 (aleurone body, aleurone grain) とよぶことがある。
細胞質基質 (cytoplasmic matrix, cytosol)
細胞内においてオルガネラを除く領域を細胞質基質というが、細胞質という語 (前述) も同義に使われることがある。細胞質基質や葉緑体ミトコンドリアペルオキシソームなどで働くタンパク質は細胞質基質に遊離しているリボソーム (遊離型リボソーム) によって合成される。ただし、藻類の中には葉緑体で働くタンパク質が粗面小胞体に付着したリボソームで合成されるものもいる。細胞質基質でのタンパク質合成の際、多数のリボソームが一本のmRNA分子上に列んでポリソーム (polysome) を形成していることもある。また細胞質基質には解糖系などさまざまな反応を触媒する酵素が存在する。
細胞の生物学 (東京医科歯科大学教養部生物 和田勝先生)
細胞小器官の名称と機能 (愛媛大学分子細胞生物学研究室)
 溶解性
アルブミン (albumin) 水に可溶ロイコシン (ムギ類)、レグメリン (マメ類)、リシン (トウゴマ)
グロブリン (globulin) 中性塩溶液に可溶グリシニン (ダイズ)、ファセオリン (インゲン)、エデスチン (ケシ)
グルテリン (glutelin) 希酸・希アルカリに可溶グルテニン glutenin (コムギ)、オリゼニン oryzenin (イネ)
プロラミン (prolamin) アルコールに可溶ゼイン (トウモロコシ)、グリアジン (コムギ)、ホルデイン (オオムギ)、セカリン (ライムギ)
表3. 貯蔵タンパクの類別

細胞骨格

細胞骨格 (cytoskeleton) とは、細胞膜直下や細胞中に張りめぐらされている繊維系であり、細胞の形態維持・変形、分裂、オルガネラの移動などに大きく関わっている。陸上植物において細胞骨格を形成しているのは、おもに微小管とアクチン繊維である。

微小管 (microtubule)
微小管は、チューブリン (tubulin) という分子量約5万の球形タンパク質からなる。微小管を構成するチューブリンにはα-チューブリンとβ-チューブリンがあり、両者が結合して二量体 (ヘテロダイマー) となる。このへテロダイマーがらせん状に重合し (1周13個)、 直径約 24 nm の管状の構造である微小管を形成している。微小管には極性があり、重合速度が速い端をプラス端 (二量体におけるβ-チューブリン側)、脱重合しやすい端をマイナス端とよぶ。チューブリン濃度によっては、プラス端で重合、マイナス端で脱重合が起こる場合もある。微小管に沿って運動するモータータンパク質 (motor protein) としてはダイニン (dynein) やキネシン (kinesin) が知られている。ATPを消費しながらダイニンは微小管上をマイナス端へ、キネシンはプラス端へ移動する。
アクチン繊維 (actin filament, F-actin)
アクチン繊維は、G-アクチン (G-actin) という分子量約4万2000の球形タンパク質からなる。G-アクチンの二量体 (ホモダイマー) が重合して直径約 6 nm のよじれたひも状構造のアクチン繊維 (F-アクチン) を形成している。このアクチン繊維が主となって細胞骨格の微小繊維 (マイクロフィラメント microfilament) を構成している。微小管と同様、アクチン繊維にも極性があり、重合速度が速いプラス端 (B端 barbed end) と脱重合しやすいマイナス端 (P端 pointed end) がある。また筋肉でよく知られているように、ミオシン (myosin) というモータータンパク質は、ATPを消費しながらアクチン繊維のマイナス端からプラス端へ移動する。

間期の細胞では、ふつう微小管は細胞膜直下に列んでおり、細胞質表層微小管 (cortical microtubule) とよばれる。細胞壁の未発達な細胞 (花粉中の雄原細胞など) では、細胞質表層微小管が細胞の形の保持に働いている。また細胞質表層微小管はふつう互いに平行に列んでおり、この方向は細胞壁最内層におけるセルロース微小繊維の配列方向と一致している。おそらく細胞膜上のセルロース合成酵素複合体は細胞質表層微小管をレールとして移動し、細胞膜上にセルロースミクロフィブリルを形成すると考えられている。細胞質表層微小管は膜貫通タンパク質を通じて細胞壁タンパク質のエクステンシンと連絡しており、これが微小管を安定化させているらしい。また根毛のように、微小管がの位置の保持にはたらいている例もある。

細胞分裂の際には、細胞内の微小管はさまざまな挙動を示し、重要な働きを果たしている。まずG1期になると核の表面からはさまざまな方向へ微小管が伸長して細胞質の糸 (細胞質糸) を形成する。細胞質糸の伸長・短縮によって核が分裂面へ移動する。分裂面に移動した核はフラグモソーム (phragmosome) とよばれる細胞質糸で支持される。フラグモソームは微小管とアクチン繊維で支持されている。またG2期になると細胞質表層微小管が消失し、細胞質周縁部に前期前微小管束 (分裂準備帯, preprophase band, PPB) とよばれる微小管の束がリング状に配置される。この面が将来、分裂面になる。 やがて分裂期に入ると、前期前微小管束やフラグモソームの微小管は消失し、微小管でできた紡錘体 (mitotic spindle) が形成され、染色体を両極に分配する。その後、分裂面に微小管からなるフラグモプラスト (phragmaplast、隔膜形成体) が形成され、ここにゴルジ体由来の小胞が集合して細胞板が形成される。

ふつうアクチン繊維は数十〜約百本が束になり、細胞質糸を支持している。また束を形成しないアクチン繊維は、細胞周期を通じて細胞膜に結合した状態で分布している。アクチン繊維の重要な機能の一つは、原形質流動やオルガネラの移動であり、これは物質やオルガネラに結合したミオシンがATPを消費しながらアクチン繊維に沿って移動することによって起こる。また花粉管や根毛のように細胞が局所的に伸長する場所にはアクチン繊維が集積し、物質輸送を集中的に誘導する。ほかにも細胞質表層微小管の安定化や配列変換に働いている。分裂期に入ると、アクチン繊維は前期前微小管束やフラグモソーム (上述) の中に出現する。また紡錘体やフラグモプラストの保持にもアクチン繊維が寄与している。

微小管とアクチン繊維の中間的な太さ (直径約 10 nm) の繊維は、中間径繊維 (中間径フィラメント intermediate filament) と総称される。後生動物ではケラチンフィラメント、ニューロフィラメント、デスミン、ビメンチン、ラミン、ネスチンなどさまざまな中間径繊維が知られているが、陸上植物ではよく分かっていない。

鞭毛と中心体

鞭毛 (flagellum, pl. flagella) は真核生物に広く存在する構造であるが、陸上植物ではコケ植物、シダ植物、裸子植物の一部 (ソテツ類とイチョウ) の精子 (雄性配偶子) にのみ存在する。コケ植物とヒカゲノカズラ綱 (ミズニラ目を除く) の精子は細胞亜頂端から生じる2本の鞭毛をもち、それ以外ではらせん状に配列した多数の鞭毛をもつ。陸上植物の鞭毛は、有効打と回復打からなる繊毛打 (ciliary beat) によって推進力を得る。

鞭毛は細長い細胞の突起であり (直径約 300 nm)、周縁部を9つの微小管2連管 (doublet) によって支持され、中心には中心微小管対 (central pair) が伸びている (9+2構造) 。周辺の2連管同士はダイニンで架橋されており、この滑り運動によって鞭毛は運動する。鞭毛の基部では、中心微小管対は消失し、周辺の微小管2連管は3連管 (triplet) になる。この部分を基底小体 (鞭毛基部、basal body) という。

基底小体には、微小管や繊維からなる複雑な構造が付随しており、鞭毛装置 (flagellar apparatus) とよばれる。陸上植物の鞭毛装置は、多数の微小管が一層に配列したスプライン (spline) と、それを裏打ちする層状構造からなり、この複合体は多層構造体 (multilayred structure, MLS) とよばれる。陸上植物の鞭毛装置は、精子の形態やオルガネラの位置の保持などに関わっていると思われるが、その機能よく分かっていない。

後生動物など多くの真核生物では、鞭毛をもたない時期にも細胞質中に基底小体が存在し、これを中心子 (中心小体、centriole) という。中心子の周囲にはセントリンやEF-1、γ-チューブリンなど多くのタンパク質が密集して中心子とともに中心体 (centrosome) とよばれる複合体を形成している。細胞分裂時には、中心体は極に存在し、紡錘糸などの微小管形成中心 (microtubular organizing center, MTOC) として働いている。陸上植物では、先に挙げたコケ植物、シダ植物、裸子植物の一部の精子形成時にのみ中心子が出現する。普通の細胞には中心子が無く、中心体とよべるようなはっきりした構造は形成しない。しかし散在したMTOCは存在し、細胞周期によってその位置が変化している。核膜にMTOCが付随しているときには核表面から微小管が放射状に伸びており、核分裂時には極にMTOCが出現する。このようなMTOCには動物細胞と同様にγ-チューブリンなどが存在することが知られている。

原形質連絡と壁孔

陸上植物の細胞の特徴として、原形質連絡 (plasmodesma, pl. plasmodesmata) の存在がある。原形質連絡は、細胞壁を貫いて隣接する細胞の間を連結する構造である。細胞の間では、原形質連絡を通じて物質の移動が行われる。

原形質連絡は直径30〜60 nmほどの管であり、その中に小胞体の伸長部である直径20 nmほどのデスモ小管 (desmotubule) が貫通している。デスモ小管の周囲には顆粒状タンパク質が取り囲んでいる。

原形質連絡は非常に狭く、さらにデスモ小管やタンパク質で栓がされているため、大きな分子は通り抜けることは困難だと考えられている。しかしある種のタンパク質には原形質連絡の孔を押し広げる機能があり、植物ウィルスもこのようなタンパク質 (移行タンパク質 movement protein) によって隣接する細胞に感染することが知られている。

原形質連絡を通じてひとつながりになった原形質のまとまりをシンプラスト (symplast) という。それに対して細胞外 (細胞壁や細胞間隙など) をつなぐまとまりはアポプラスト (apoplast) とよばれる (上記参照)。植物体の細胞間における物質移動は、シンプラストとアポプラスト両方を通じて行われる。

細胞分裂において細胞板が形成されるときに、フラグモプラストの微小管とともに小胞体が取り残され、そこだけ細胞壁が形成されずに貫通部として残ったものが原形質連絡となる。しかしすでに存在する細胞壁に新たに貫通部ができて原形質連絡が形成されることもあり、量的にはこちらの方がはるかに多いらしい。

原形質連絡は比較的一様に分布する場合と、特定の領域に集中して存在する場合がある。集中して存在する場合は、その部分の一次壁が薄くなっており、一次壁孔域 (primary pit field) とよばれる。一次壁孔域は、周辺部に二次壁が厚く堆積するようになっても薄いまま残り、壁孔 (孔紋、壁凹、ピット pit) となる。相対する細胞の壁孔は一次壁を挟んで対になっていることが多く、これを壁孔対 (pit pair) とよぶ。それに対して対をなさない単独の壁孔は盲壁孔 (blind pit) とよばれる。

壁孔において底の一次壁が露出した部分を壁孔壁 (壁孔膜 pit membranes) といい、細胞内に面した開口部を孔口 (pit aperture) という。柔細胞木部繊維にみられるように壁孔壁と孔口の径がほぼ等しい壁孔は単壁孔 (simple pit) 、仮導管や導管細胞の壁孔のように孔口縁の二次壁が張り出したものは有縁壁孔 (bordered pit) とよばれる。有縁壁孔において、壁孔壁と覆い被さった2次壁の間にできた空間は壁孔室 (pit chamber) という。また壁孔の直径に対して細胞壁が非常に厚くなったものは管状になり、壁孔道 (pit canal) とよばれる。

ふつう単壁孔どうし、または有縁壁孔どうしが対になる (単壁孔対 simple pit pair、有縁壁孔対 bordered pit pair) が、柔細胞仮道管が接しているようなところでは単壁孔と有縁壁孔が対になり、半有縁壁孔対 (half bordered pit pair) とよばれる。

有縁壁孔対には、壁孔壁にトールス (torus) という肥厚部が存在することがある。隣接する細胞の間で水圧に極端な差ができると、トールスを含む壁孔壁が一方へ押しやられることになり、その結果その壁孔は栓がされた状態になる。これは細胞が傷害を受けた場合などに、周囲の細胞における水の流出を防ぐ働きがあると考えられている。

細胞分裂

陸上植物は多細胞生物であり、分裂組織における細胞分裂 (cell division) をもとに成長する。細胞分裂を行ってから次の細胞分裂まで細胞は一定の周期をもっており、細胞周期 (cell cycle) とよばれる。この細胞周期はサイクリン (cyclin) とよばれるタンパク質の蓄積によって制御されている。細胞周期は、細胞分裂の起こる分裂期 (M期) とそれ以外の間期に大別され、さらにそれぞれ以下のように細分される。

間期 (interphase)
G0期 (G0 phase [G は gap の意])
細胞の成長が休止中である期間。
G1 (複製準備期、G1 phase)
細胞容積が倍加し、フラグモソーム (phragmosome) とよばれる細胞質糸によって細胞の中心部に移動する (上記参照)。また2細胞分のオルガネラが複製され、生合成が活発になる。G1期はG1/S チェックポイント (G1/S check point) で終了する。
S期 (複製期、S phase [S は synthjesis の意])
DNAおよびその結合タンパク質が倍加し、DNAが複製される。
G2 (分裂準備期、G2 phase)
染色体が凝集し始め、分裂に必要な構造が形成される。また細胞表層の骨格系微小管が消失し、かわりに前期前微小管束 (preprophase band) とよばれる微小管の束が分裂面の細胞質周縁部にリング状に配置される (上記参照)。G2期はG2/M チェックポイント (G2/M check point) で終了する。
分裂期 (M期 M phase [M は mitosis の意])
核の分裂である有糸分裂 (mitosis) と細胞質分裂 (cytokinesis) が起こる。
前期 (prophase)
染色体が凝集し、染色体のセントロメア (centromere) に動原体 (kinetochore) が付着する。極から極微小管 (polar microtubule) が伸びて紡錘体 (spindle) が形成され始める。
前中期 (prometaphase)
仁や核膜が消失する。動原体微小管 (kinetochore microtubule) が動原体と極を連結する。
中期 (metaphase)
動原体微小管によって染色体が中央部 (赤道面 equatorial plane) に整列して中期板 (metaphase plate) を形成する。
後期 (anaphase)
姉妹染色体が分かれ、動原体微小管によって娘染色体がそれぞれの極へ移動を開始する。また極微小管によって極が互いに離れていく。
終期 (telophase)
娘染色体が極に移動し、動原体微小管が消失する。その後、核膜が染色体の周囲に形成され、染色体は脱凝縮する。
細胞質分裂 (cytokinesis)
分裂面に紡錘糸 (極微小管) が残ってフラグモプラスト (隔膜形成体 phragmoplast) を形成し、ここにゴルジ体由来の小胞が集まって細胞板 (cell plate) ができる。この際、小胞体の一部が細胞間にとどまって原形質連絡を形成する。細胞板は遠心的に広がって母細胞の細胞壁に接して隔壁が完成する。細胞板には最初、カロースキシログルカンが蓄積し、母細胞壁と癒合した後にセルロースペクチンが沈着していく。

動物ではふつうS期を通過した細胞は必ず細胞分裂を行うが、陸上植物では必ずしもこの関係は厳密ではない。そのため分裂することなくDNA複製のみを行うこと (核内倍加 endoreduplication) が多く、表皮細胞など植物細胞の80%以上が複相より多いDNA量をもつ。

ふつう細胞分裂の前にDNA量が倍加するため (S期) 、分裂後の細胞はもとと同じ染色体数をもつ。しかし生殖細胞では、DNA量倍加の後に2回の有糸分裂が連続しておこるため、半分の染色体をもつ細胞が4つできる。この分裂を減数分裂 (meiosis) という。陸上植物では、胞子形成時 (種子植物では葯と胚珠の中) で減数分裂が起こる。減数分裂は以下のような過程で進行する。

第1分裂
それぞれ2つの染色分体から構成される2つの相同染色体が対合してシナプトネマ複合体 (synaptonemal complex) を形成する。このとき染色分体間や相同染色体間で組み替えが起こる。対合した染色体は赤道面に整列した後に、個々の相同染色体がそれぞれの極へ移動する。その後、細胞質分裂が起きて2つの細胞ができる。
第2分裂
染色体が赤道面に整列した後に個々の染色分体がそれぞれの極へ移動する。その後、細胞質分裂が起きて最終的に単相の細胞が4つできる。
細胞の生物学 (東京医科歯科大学教養部生物 和田勝先生)