植物の基本構造
Basic body plan of plants

維管束植物 (シダ植物と種子植物) の体は基本的に根・茎・葉という3種類の器官 (organ) から成り立っている (図1)。

(root)
ふつう地中にあり、四方へ分枝している。水や無機養分を地中から吸収して他の器官へ供給するとともに、植物体を支える役割を担っている。
根について
(stem)
ふつう地上部にあって分枝し、規則的に葉をつけている。植物体の地上部を支えるとともに、葉と根の間で水、無機養分、有機化合物などの通道という役割を担っている。
茎について
(leaf)
ふつう茎についており、扁平な形をしている。外界との間で水 (水蒸気) や酸素、二酸化炭素の交換を行い、光合成による有機物の生成という役割を担っている。
葉について

この中で、茎はふつう葉をつけ、葉は基本的に茎につく。また両者は共通の分裂組織からつくられる。このように茎と葉は密接な関係にあり、ひとまとまりの単位として扱う方が便利なときがある。1本の茎とその茎につく葉をまとめてシュート (shoot) という。また1つの植物個体を構成するシュートをまとめてシュート系 (shoot system)、根をまとめて根系 (root system) という。

シュートについて

維管束植物のなかで種子植物 (特に被子植物) は、根・茎・葉のほかにも果実など特別な器官をつける。しかし花は有性生殖のために特殊化したシュートであり、果実はその一部が成熟したものである。このように、維管束植物のからだはたった3種類 (茎と葉をシュートとしてまとめれば2種類) の器官から成り立っている。ふつう1つの個体は多数の根、多数の茎、多数の葉から構成されており、それぞれの数は個体によってばらつきが大きい。このことは、我々を含む多細胞動物が一定の数のさまざまな器官 (例えば1対の眼) から成り立っているのと対照的である。

陸上植物の中でコケ植物 (蘚類・苔類・ツノゴケ類) の体制はより単純であるが、いちおう茎と葉、そして仮根 (rhizoid) からなるものが多い。ただしこの茎や葉、仮根は維管束植物の茎や葉、根とは構造・起源が異なるものである (コケ植物では配偶体、維管束植物では胞子体)。またコケ類の中にはゼニゴケやツノゴケのように葉も茎もなく全体が平面状に広がっているもの (葉状体) もある。

コケ植物について

陸上植物は多細胞生物であり、多数の細胞が集まってできている。しかし同じような細胞がただ漫然と集まってできているわけではない。陸上植物では、特定の機能を持った細胞が集まって組織 (tissue) をつくっている。組織は同じ機能をもった細胞が集まっていることもあるし (単組織)、いくつか異なるタイプの細胞が集まっていることもある (複合組織)。いくつかの組織が集まってさらに大きなレベルの組織を形成し、それが器官を形作っている。最上位のレベルの組織の集まりのことを組織系 (tissue system) といい、ふつう表皮系維管束系および基本組織系にわけられる。根・茎・葉は全てこの3組織系から成り立っている (図2)。
植物の組織について

表皮系 (epidermal system, dermal system)
植物体の表面を覆う組織系であり、その保護と物質の出入りの調節を行っている。複合組織である表皮 (epidermis) からなり、表皮は表皮細胞孔辺細胞 (気孔)、毛状突起 (毛や根毛) などからなる。
表皮系について
維管束系 (vascular system, fascicular system)
植物体の中にあって物質の通道や植物体の支持を行う組織系。複合組織である木部 (xylem) と篩部 (phloem) からなる。木部は水や無機養分の通道、篩部は同化産物の通道にはたらいている。また木部や篩部には、機械的支持に特化した繊維組織や物質貯蔵などにはたらく柔組織もある。
維管束系について
基本組織系 (fundamemntal tissue system)
表皮系と維管束系以外の部分を基本組織系という。形態的・機能的にさまざまな組織の寄せ集めであり、まとまった特徴はない。葉の葉肉組織 (柵状組織や海綿状組織) は光合成にはたらく基本組織であり、イモに見られるデンプンを貯めた貯蔵組織は栄養分の貯蔵にはたらく基本組織である。ほかにも基本組織系には貯水や機械的支持、通気、分泌などさまざまな機能をもつものが含まれる。
基本組織系について

陸上植物の中でコケ類は組織の分化という点でも未熟な段階にあり、上に挙げたような組織の分化は見られない。一部のコケ類には水の通道のための中心束 (蘚類) や光合成のためのラミナ (スギゴケ類)、気室 (ゼニゴケ類) のような特殊化した組織が見られるが、維管束植物のそれには及ばない。

コケ植物について

陸上植物は多細胞生物であり、その成長は細胞数の増加と細胞の拡大伸張によっている。陸上植物において、細胞分裂によって細胞数が増加する場所はほぼ決まっており、分裂組織 (meristem) とよばれる。維管束植物では、発生の初期から通じてそれは茎 (シュート) と根の頂端にあり、頂端分裂組織 (apical meristem) とよばれる。頂端分裂組織で増えた細胞は最初は未熟な段階にあるが、分裂組織からやや離れたところ (伸張域) で拡大伸張し、やがて分化した状態になる。このように陸上植物の成長は基本的に軸の頂端で起こるので、頂端成長 (apical growth) とよばれる。

単子葉植物を除く種子植物では、頂端成長に加えて太さを増す成長 (側方成長 lateral graowth) がふつうに見られる。このような成長を司る組織を側方分裂組織 (lateral meristem) といい、維管束形成層 (vascular cambium、単に形成層ともいう) やコルク形成層 (phellogen, cork cambium) がある。いわゆる樹木 (木本) は、これらの分裂組織の働きによって大きな体をつくり、それを支えている。

分裂組織について

陸上植物は頂端分裂組織の活動によってシュートと根の主軸 (main axis) が伸張し、さらに主軸の側方には新たな頂端分裂組織ができて側軸 (lateral axis) として側枝や側根がつくられる。側枝や側根は伸張し、新たな主軸となってまた新たな側軸をつくっていく。また側方分裂組織によってそれぞれの軸は肥大していく。このように植物の体は繰り返し構造の付加とその伸長・肥大によって構築され、成長に決まった終点というものがない。このような成長様式を無限成長 (indeterminate growth) といい、動物に一般に見られる有限成長 (determinate growth) とは対照的である。ただし植物でも全ての器官が無限成長をするわけではなく、ふつう葉は有限成長であるし、生殖器官である花も有限成長である。

図1. 維管束植物の基本的体制
図2. 維管束植物の内部構造