図1. 左から: ツリガネニンジン (キキョウ科) 、セイヨウアブラナ (アブラナ科) 、オオアワガエリ (イネ科) 、シキミ (シキミ科) 、ファレノプシス (ラン科).
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花 (flower) は、生殖器をつけた葉とその周囲の葉が変化してできた被子植物に特有の器官である。花は雄しべのつくった花粉と雌しべの中の胚嚢が合体して次世代の植物体である種子をつくるという直接的な機能のほかに、それを効率的に行いかつ保護するという機能を果たすため、萼片や花弁などの花被片をもっている。このような生物学的な機能に適応し、そして植物がたどってきた進化の道筋の跡を残しているために、花は基本プランを共有するとともに非常な形態的多様性を示す (図1)。 広い意味で言えば、裸子植物やシダ植物も"花" (生殖器をつけた葉の変形物) をもっているということができる (図2)。しかし、これらの"花"は被子植物の花とは構造的に大きく異なり、直接的に比較するのは困難である。一般的には花とは被子植物の器官に限られる。 被子植物の花は基本的に外側から萼片、花弁、雄しべ、雌しべが輪状に集まってできている (図3)。これらの花要素はすべて葉が変化してできたものであり、花葉 (floral leaf) とよばれる。これらの要素が葉から変化したものであることは、近年の分子生物学的な研究に基づく実験からも確かめられている (ABCモデル) 。 |
図2. 左から: アカマツ (マツ科) の雄性球花、ソテツ (ソテツ科) の雌性胞子葉群、マンネンスギ (ヒカゲノカズラ科) の胞子嚢穂.
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図3. 被子植物の花の模式図
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萼片と萼花の最外輪にある花葉で、その内側の要素 (花弁) とは質が異なる場合、その個々の要素を萼片 (sepal) 、要素をまとめて萼 (calyx) とよぶ (図4)。ふつう萼は花の中で葉の特徴を最もよく残しており、他の要素を保護する役割を果たしているが、トリカブト属 (キンポウゲ科) のように花弁の代わりに目立つ色・形をしていることもある。萼片は互いに離生しているものもあるし、互いに合着して萼筒 (calyx tube) を形成していることもある (図4左)。 萼片と萼について |
図4. 左:ハナトラノオ (シソ科) では5個の萼片が合着して萼筒を形成している. 右:ヘビイチゴ (バラ科) には大きな萼と副萼がある.
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花弁と花冠萼の内側、雄しべの外側にある花葉で、萼とは質が異なる場合、個々の要素を花弁 (petal) 、要素をまとめて花冠 (corolla) とよぶ (図5)。花弁とは多くの場合、いわゆる"花びら"のことである。花冠は内側の雄しべや雌しべを保護すると同時に、昆虫の誘因など効率的な花粉媒介を助ける働きを果たしている。花弁が離生している花を離弁花 (choripetalous flower) (図5左)、互いに合着している花を合弁花 (sympetalous flower) (図5右) という。 花弁と花冠について |
図5. 左:アケボノスミレ (スミレ科) の花は5個の花弁が左右相称にならぶ離弁花である. 右:ヤマホタルブクロ (キキョウ科) では5個の花弁が合着して鐘状の花冠を形成する.
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雄しべと雄しべ群小胞子とそこから発生した雄性配偶体である花粉をつくる花葉のことを雄しべ (雄ずい) (stamen) とよび、1つの花の雄しべ全体を雄しべ群 (androecium) とよぶ (図7)。雄しべはふつう葯 (anther) とそれを支える花糸 (filament) からなり、葯の中で小胞子とそれから発生した雄性配偶体である花粉 (pollen) がつくられる。 雄しべについて花粉について |
図7. 左:ツバキ (ツバキ科) はひとまとまりになった多数の雄しべ (単体雄しべ) をもつ. 右:オオイヌノフグリ (オオバコ科) の花には2個の雄しべがある.
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心皮と雌しべ、雌しべ群大胞子とそこから形成される雌性配偶体 (胚嚢 embryo sac) を含んでおり、次世代の植物体 (種子) となる器官である胚珠 (ovule) をつける花葉のことを心皮 (carpel) とよぶ。ふつう複数の心皮が合体して1個の雌しべ (雌ずい) (pistil) を形成しているが (図8左)、個々の心皮が独立した雌しべになることもある (図8右)。1つの花の雌しべ全体を雌しべ群 (gynoecium) とよぶ。雌しべの中で、基部にあって胚珠を含んでいる部分を子房 (ovary)、先端にあって花粉を受け入れる部分を柱頭 (stigma)、子房と柱頭を結ぶ部分を花柱 (style) という。 心皮と雌しべについて 胚珠について胚嚢について |
図8. 左:クサノオウ (ケシ科) の雌しべは2個の心皮が合着してできている. 右:Illicium floridanum (シキミ科) の雌しべは多数の独立した心皮からなる.
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花托と花軸花葉をつけている茎の先端が変化した部分を花托 (tarus) とよぶ。子房周囲や子房下位の花では、ふつう花托が筒状になって子房を包んでおり、この筒を花托筒 (hypanthium) という。また子房基部 (または花柱基部) の花托が肥大したものは花盤 (disc) とよばれる。ハス (ハス科) ではさらに花托が発達して雌しべ全体を包み込んでしまっている (図9左)。またタイサンボク (モクレン科) のように花托が上下に長い場合は、花軸 (floral axis, rachis) とよぶ (図9右)。フウロソウ属 (フウロソウ科) では花後に雌しべ内 (心皮の間) を花軸が伸びるが、これを心皮間柱 (carpophore) という。またナデシコ属 (ナデシコ科) では萼と花冠の間の花軸が伸び、花被間柱 (子房柄 gynophore) とよばれる。 |
図9. 左:ハス (ハス科) の花托は大きく発達して複数の雌しべを包んでいる. 右:タイサンボク (モクレン科) の花托は前後に長くなり花軸となる.
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花柄と苞1つの花を支える柄のことを花柄 (pedicel) とよび (図10左)、花の基部にあって他の葉とは質が異なる葉のことを小苞葉または苞葉 (bracteole) とよぶ (図10右)。特に小さな花が集合している場合、個々の花を小花 (floret) 、柄を小花柄 (pedicelet) ということがある。 |
図10. 左:ツリガネニンジン (キキョウ科) の花は長い花柄の先についている. 右:ミズギボウシ (ユリ科) の花の基部には小さな苞がある.
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花床と花梗、総苞キク科のように多数の花が集合して1つのまとまりをつくる場合、花がついている平面的に広がった部分を花床 (receptacle) とよぶ (図11左)。また複数の花をつける共通の枝を花梗 (peduncle) という (図11右)。複数の花 (花序) の根元にあって他とは異なる葉のことを総苞片 (involucral segment) とよび、集合名称として総苞 (involucre) という。タンポポなどキク科の花で萼のように見えるものは総苞である (図11左)。 |
図11. 左:セイヨウタンポポ (キク科) は多数の舌状花が花床についており、その根元には多数の総苞片がある. 右:アセビ (ツツジ科) は花梗に多数の花がついている.
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