草本と木本
Herb & tree

植物はその習性 (habit) や生活形 (life form) によっていくつかに類別することができる。最も身近な例は草 (草本) と木 (木本) の類別である。

草本 (herb, herbaceous plant)
地上部はふつう一年以内に開花・結実・枯死し、茎は木化せず肥大成長しない。一般に小形であるが、タケニグサ (ケシ科)、ウド () のように高さ数mに達するものもある。
木本 (tree, woody plant)
地上部が多年にわたって繰り返し開花・結実し、茎は木化し肥大成長する。一般に大形であるが、イブキジャコウソウ (シソ科) のように高さ数cmにしかならないものもある。

実際には中間的なものも多く存在し、草本と木本を明瞭に区別することは難しい。例えばジャノヒゲ属 (スズラン科)、カンアオイ属 (ウマノスズクサ科)、イチヤクソウ属 (ツツジ科) など多年生で常緑の草本は少なくない。またフッキソウ (ツゲ科) は茎が肥大成長するが木化しない。オオハマギキョウ (キキョウ科) の茎は木化するが一度開花・結実すると枯死する。タケ類 (イネ科) は肥大成長しないが、茎は十分に木化している。

草本のいろいろ

草本はその生存期間によって以下のように分けられる。

一年草 (annual herb)
発芽後一年以内に開花・結実し、植物体全体が枯死するもの。四季のある地域では以下の2型に分けられる。ただしハコベ (ナデシコ科) やナズナ (アブラナ科) のように春にも秋にも発芽・成長する種もある。
夏型一年草 (summer annual herb)
春に発芽し、冬までに開花・結実・枯死するもの。メヒシバ (イネ科)、イヌタデ (タデ科)、シロザ ()、イヌホオズキ (ナス科) などがある。
冬型一年草 (winter annual herb) (越年草)
秋に発芽し、夏までに開花・結実・枯死するもの (冬緑性)。コバンソウ (イネ科)、タガラシ (キンポウゲ科)、コハコベ (ナデシコ科)、カラスノエンドウ (マメ科)、ヤエムグラ (アカネ科)、キキョウソウ (キキョウ科) などがある。
二年草 (biennial herb)
秋または春に発芽し、2〜数年目に開花・結実して植物体全体が枯死するもの。生存期間は一年以上数年未満である。何年目に開花・結実するかによって以下のように分けられる。
真正二年草 (true biennial herb)
2年目に開花・結実するもの。シナノナデシコ (ナデシコ科)、マツムシソウ (マツムシソウ科) などがある。
可変性二年草 (pseudobiennial herb)
環境条件によって2〜数年目に開花・結実・枯死するもの。二年草のほとんどが含まれ、メマツヨイグサ (アカバナ科)、コウゾリナ、ヒメジョオン (キク科) などがある。
多年草 (perennial herb) (宿根草)
植物体は2年以上生存し、2回以上 (基本的に毎年) 開花・結実するもの。シラネセンキュウ (セリ科) などのように植物体は多年にわたって生存するが、一度開花・結実すると枯死してしまうものもあり、1回結実型多年草 (1回繁殖型多年草、1稔草 monocarpic perennial herb) とよばれる。また新たな個体が毎年地下部で母体と切り離され、母体は枯死してしまう例もあり、これを分離型地中植物という (下記参照)。
落葉性多年草 (deciduous perennial herb)
葉が1年以内に落葉し、葉を全くつけない時期が存在する多年草。
夏緑性多年草 (summer green perennial herb)
葉は春〜夏に展開し、冬には落葉するもの。ニワゼキショウ (アヤメ科)、ケキツネノボタン (キンポウゲ科)、ヘビイチゴ (バラ科)、ミヤコグサ (マメ科)、スミレ (スミレ科)、カキドオシ (シソ科)、ニガナ (キク科) などがある。
越年性多年草 (winter green perennial herb)
葉は越冬し、展開後1年以内に落葉するもの。オシダ (ウラボシ綱)、シャガ (アヤメ科)、カモガヤ (イネ科)、ワサビ (アブラナ科)、ゴゼンタチバナ (ミズキ科) などがある。
常緑性多年草 (evergreen perennial herb)
葉は1年以上生存、もしくは次々と展開して常に葉をつけている多年草。カンアオイ (ウマノスズクサ科)、シュンラン (ラン科)、フッキソウ (ツゲ科)、イチヤクソウ (ツツジ科) などがある。

木本のいろいろ

木本はその葉の生存期間によって以下のように分けられる。

落葉樹 (deciduous tree)
全ての葉が1年以内に枯死・脱落し、緑色の葉を全くつけない時期がある木本。落葉樹の中にはアケビ (アケビ科)、ノイバラ (バラ科)、スイカズラ (スイカズラ科) のように落葉期に一部の葉が生きて越冬するものもあり、半落葉樹 (hemideciduous tree) とよばれる。
夏緑樹 (summer green tree)
四季のある地域において、夏期に茂り、冬期に落葉する落葉樹。カラマツ (マツ科)、ブナやコナラ (ブナ科)、カエデ類 (ムクロジ科)、サクラ類 (バラ科)、ハナミズキ (ミズキ科) などがある。
雨緑樹 (rain green tree)
二季のある地域において、雨期に茂り、乾期に落葉する落葉樹。チーク (クマツヅラ科) やフタバガキ (フタバガキ科) などがある。
常緑樹 (evergreen tree)
個々の葉の生育期間は1年未満〜数年だが、植物体は一年を通じて緑色の葉をつけている木本。ヒノキ (ヒノキ科)、アカマツ (マツ科)、クスノキ (クスノキ科)、スダジイ (ブナ科)、ヤブツバキ (ツバキ科) などがある。

また木本はその高さ (樹高) や幹の形状によって以下のように分けられる。

高木 (arbor, tree)
主幹が明瞭で、樹高が8m以上になる木本。森林では高木層を形成する。モミ (マツ科)、スギ (ヒノキ科)、ブナ (ブナ科)、ケヤキ (ニレ科)、ヤマザクラ (バラ科) など。樹高30m以上で高木層を突き抜けているような樹木は特に超高木といい、北米のセコイア (ヒノキ科) や熱帯のフタバガキ科などがある。
亜高木 (小高木) (subarbor)
主幹が明瞭で、樹高が3〜8mになる木本。森林では亜高木層を形成する。ナナカマド (バラ科) など。
低木 (灌木) (shrub, bush)
地下や根際で数本の幹に分かれ、主幹が不明瞭で、樹高が0.3〜3mになる木本。森林では低木層を形成する。シモツケ (バラ科) など。
亜低木 (半低木) (undershrub, subshrub, suffruicose plant)
地下や根際で数本の幹に分かれ、主幹が不明瞭で、茎の下半分〜根際のみが木化しているもの。草本と木本の中間的な性質をもつ。ヤマブキ (バラ科)、ヤマハギ (マメ科)、コウヤボウキ、ヨモギ (キク科) など。
矮性低木 (小低木、匍匐性低木) (dwarf shrub)
地下や根際で数本の幹に分かれ、主幹が不明瞭で、樹高が0.3m以下の木本。林内では草本層を形成する。特に高山域では優占することがある。ヤブコウジ (ヤブコウジ科)、ガンコウラン、コケモモ (ツツジ科)、イブキジャコウソウ (シソ科) など。

休眠型

Raunkiaer (1908) は生育不適期 (冬季や乾期) における休眠芽の位置に基づいて以下のような休眠型 (dormancy type) を提唱している。

地上植物 (挺空植物) (phanerophyte; Ph)
休眠芽を地上高25 cm以上につける植物。
大型地上植物 (大高木) (macrophanerophyte; Mg)
休眠芽を地上高30 m以上につける植物。セコイアやスギ (ヒノキ科) などがある。
中型地上植物 (中高木) (mesophyte; Ms)
休眠芽を地上高8〜30 mにつける植物。モミ (マツ科) やブナ (ブナ科) などがある。
小型地上植物 (小高木) (microphanerophyte; Mc)
休眠芽を地上高2〜8 mにつける植物。イチイ (イチイ科) やイロハモミジ (ムクロジ科) などがある。
微小型地上植物 (矮形地上植物、低木) (microphanerophyte; Mc)
休眠芽を地上高25 cm〜2 mにつける植物。イヌツゲ (ツゲ科) やヤマツツジ (ツツジ科) などがある。
地表植物 (chamaephyte; CH)
休眠芽を地上高0〜25 cmにつける植物。コケモモやイチヤクソウ (ツツジ科)、ヤブコウジ (ヤブコウジ科)、ヨモギ (キク科) などがある。
半地中植物 (hemicryptophyte; H)
休眠芽を地表付近につけ、落葉や土壌で薄く覆われる植物。カンアオイ (ウマノスズクサ科) やオオバコ (オオバコ科)、オミナエシ (オミナエシ科)、セイヨウタンポポ (キク科) などがある。
地中植物 (geophyte, cryptophyte; G)
休眠芽を地中の地下茎につける植物。マムシグサ (サトイモ科)、カタクリ (ユリ科)、カラスウリ (ウリ科)、リンドウ (リンドウ科)、ツリガネニンジン (キキョウ科) などがある。また特殊な例として、休眠芽をつけた地下茎の部分が母体から切り離され、ここから新しい植物体が生じるが、母体は枯死してしまうものもある。このような地中植物を特に分離型地中植物 (separated geophyte) とよばれ、モミジガサ ()、ミズタマソウ ()、トリカブト類 (キンポウゲ科)、イワアカバナ () などがある。
水生植物 (水湿生植物) (hydrophyte; HH)
休眠芽を水中や水底下につける植物。
湿生植物 (helophyte; He)
休眠芽を水底下の地下茎につける植物。コウホネ (スイレン科) やオモダカ (オモダカ科)、ヨシ (イネ科)、ハス (ハス科) などがある。
水中植物 (hydrophyte; Hy)
休眠芽を水中につける植物。クロモ (トチカガミ科) やタヌキモ (タヌキモ科) などがある。
一年生植物 (therophyte, annual plant; Th)
生育不適期は種子で過ごし、休眠芽をつけない植物。一年草 (上記参照)。