細胞間隙
植物体は細胞が隙間なく詰まってできているわけではなく、特に分化が終わった組織にはさまざまな細胞同士の隙間、つまり細胞間隙(intercellular space)が存在する。細胞間隙には気孔を通じて空気が入っていることが多いが(空気間隙 air space)、粘液や乳液、樹脂、精油などの物質を含むこともある。細胞間隙のでき方には大きく分けると以下の2つがある。
- 離生細胞間隙(schizogenous intercellular space)
- 隣接する細胞が中葉部分で離れてできた細胞間隙。葉肉の海綿状組織にある空気間隙や、スイレン科の通気組織、球果類、セリ科、キク科の分泌道がこれにあたる。
- 破生細胞間隙(lysigenous intercellular space)
- 細胞が崩壊することによって生じた細胞間隙。周囲の細胞の成長など他動的な要因で崩壊したものを狭義の破生細胞間隙(rhexigenous intercellular space)、細胞が自動的に崩壊してできたものを崩潰細胞間隙(lysigenous intercellular space)とすることもある。トクサ科やイネ科の髄にある大きな空気間隙(髄孔)や、ミカン科の特有の匂いの元となる油滴を含む分泌道などがこれにあたる。
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管状要素の細胞壁
管状要素には仮導管と導管細胞があり(上記参照)、維管束において水や無機栄養の通道を行っている細胞である。管状要素は原形質を欠く死細胞であり、細胞壁の二次壁が発達している(厚壁細胞)。その細胞壁の発達の様子や、管状要素同士の連絡部における細胞壁の状態にはさまざまなタイプが見られる。
ふつう管状要素の細胞壁は一次壁の内側に木化した二次壁ができて肥厚するが、その肥厚は一様ではなく、不均一に肥厚して以下のような紋様を示す。下に挙げた諸型の順序は発生の順序とほぼ一致しており、進化的な順序を示していると考えられている。
- 環紋肥厚(annular thickening)
- 環状に肥厚した二次壁と肥厚しない一次壁が繰り返されているもの。原生木部によく見られ、成長にともなって一次壁の部分が引き伸ばされることがある。環紋肥厚をもつ導管を環紋導管(annular vessel)という。
- らせん紋肥厚(helical thickening)
- らせん状に二次壁が肥厚するもの。原生木部によく見られ、成長にともなって一次壁の部分が引き伸ばされることがある。らせん紋肥厚をもつ導管をらせん紋導管(helical vessel)という。
- 階紋肥厚(scalariform thickening)
- はしご状に二次壁による肥厚が起こるもの。細胞の成長が止まってからできる。後生木部によく見られる。階紋肥厚をもつ導管を階紋導管(scalariform vessel)という。
- 網紋肥厚(reticulate thickening)
- 階紋肥厚に似るが、より不規則に肥厚するもの。後生木部によく見られる。網紋肥厚をもつ導管を網紋導管(reticulate vessel)という。
- 孔紋肥厚(pitted thickening)
- 壁孔(pit)をもち、それを欠く部分の二次壁が厚く肥厚するもの。後生木部や二次木部によく見られる。孔紋肥厚をもつ導管を孔紋導管(pitted vessel)という。
導管細胞は仮導管と異なり、両端で互いに接してそこに穿孔(perforation)があるが、その穿孔の形態には以下のようなタイプがある。
- 階段穿孔(階紋穿孔 scalariform perforation)
- 階段状に孔があいた穿孔。最も原始的なタイプと考えられている。
- 網状穿孔(網紋穿孔 reticulate perforation)
- 階段穿孔に似るが、孔が網目状になっている穿孔。
- 円状穿孔(foraminate perforation、孔紋穿孔 pitted perforation)
- 比較的小さな円状の孔が多数集まっている穿孔。マオウ科やツツジ科に見られる。
- 単穿孔(simple perforation)
- 大きな孔が1つだけあいている穿孔。最も派生的なタイプだと考えられている。単穿孔に対して前3者のように複数の開孔からなる穿孔を多孔穿孔(multiple perforation)(複合穿孔 compound pereforation)と総称する。
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図2.
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原始的 |
→ |
派生的 |
| 側壁の厚さ |
薄い |
→ |
厚い |
| 側壁の紋様 |
環紋肥厚 |
→ |
孔紋肥厚 |
| 穿孔 |
複合穿孔 |
→ |
単穿孔 |
| 穿孔板の傾斜 |
斜め |
→ |
水平 |
| 長さ |
長い |
→ |
短い |
| 太さ |
細い |
→ |
太い |
| 横断面 |
多角形 |
→ |
円形 |
表1. 導管細胞の進化傾向
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細胞に含まれる物質
細胞にはさまざまな物質が含まれており,さまざまな機能に利用される。そのような物質の生成・貯蔵のために特化した細胞もある。
- デンプン(starch)
- 光合成の結果できる貯蔵多糖(α-1,4-グルカン)であり、色素体の中に存在する。デンプン貯蔵に特化して光合成能を失った色素体をアミロプラスト(amyloplast)という。種子やいわゆるイモには大量に蓄積されていることが多い。分解されたデンプンは篩管などを通って輸送され、植物体のさまざまな部分でエネルギー源として使われる。
- 油(oil)
- ふつう油滴(droplet)の形で細胞質中に含まれる。油を大量に生成する細胞は分泌性異形細胞(secretory idioblast)とよばれる。特に種子に多く、ナタネ油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油などさまざまに利用される。油も植物体のエネルギー源として利用される。
- 乳液(latex)
- 弾性ゴムを含み粘性のある液体で白いものが多いが、クサノオウ(ケシ科)などでは黄色。酵素やアルカロイド、デンプンを含むものもある。葉や茎を切ると見ることができる。乳液を生成する細胞を乳細胞(latex cell, lactiferous cell)という。乳液を含む部分を乳管(laticifer)というが、多核の1細胞からなるものを単乳管または無師乳管(non-articulated laticifer)といい(トウダイグサ科、キョウチクトウ科)、複数の細胞がつながったものを連合乳管または有師乳管(articulated laticifer)という(ケシ科、キク科)。細胞内ではなく細胞間隙に乳液が貯められることもある。パラゴムノキ(トウダイグサ科)からのゴムや、ケシ(ケシ科)からのモルヒネなど人間に利用される物も多い。
- 粘液(mucilage)
- 粘液は多糖とタンパク質を含む粘性のある物質であり、吸水率が大きく乾くと硬化する。粘液をつくる細胞を粘液細胞(mucilage cell)という。細胞内ではなく細胞間隙に粘液がある場合、その間隙を粘液道(mucilage canal)という。アオイ科などに見られる。
- タンニン(tannin)
- タンニンとはタンパク質やアルカロイド、金属イオンなどに結合するポリフェノール類であり、液胞中に蓄積される。タンニンを生成する細胞をタンニン細胞(tannin cell)という。タンニンはいわゆる"灰汁(あく)"や"渋み"のもとであり、動物の食害を防ぐ役割があると考えられている。また微生物による病害から植物体を守っているともされる。リンゴをむいて放置しておくと茶色くなるのは細胞中のタンニンが酸化酵素によって酸化されるためである。タンニンは茶の重要な成分であり(カテキンはタンニンの一種)、また皮を鞣すことにも使われる。
- 蓚酸カルシウム(calcium oxalate)
- 炭酸カルシウム(calcium carbonate)
- これらの物質は細胞の液胞中にふつう結晶の形で存在する。結晶を含む細胞を結晶細胞(crystal cell)という。蓚酸カルシウムは"えぐみ"のもとであり、タンニンと同様に食害を防ぐ働きがあるとされている。結晶の形は多様であり、以下のようなものがある。
- 単晶(simple crystal):大形で単一の結晶。マンサクやイスノキ(マンサク科)などに見られる。
- 針晶(raphid):細長い針状のもの。多数集まって束をなしているものは特に束晶(bundle crytal)という。キツネノマゴ(キツネノマゴ科)やムラサキツユクサ(ツユクサ科)などに見られる。
- 集晶(druse):小さな結晶が多数集まって金平糖状になったもの。ギシギシ(タデ科)などに見られる。
- 砂晶(crystal sand):小さな結晶が細胞中に多数存在するもの。アカザ(アカザ科)の茎などに見られる。
- 鍾乳体(cystolith):大きな炭酸カルシウムの非結晶性の塊であり、液胞中に柄でぶら下がっている。カナビキボク科の表皮、イラクサ科やクワ科では葉の基本組織(葉肉)に見られる。
- 珪酸(silica)
- さまざまな植物で、珪酸(SiO2.nH2O)を珪酸体(silica body)の形で細胞内外に貯めた特殊な細胞が存在することがある。このため、トクサ(トクサ綱)の茎で物を磨いたり、ススキ(イネ科)の葉で手が切れたりする。イネ科の葉の表皮において珪酸体を形成する細胞を機動細胞(motor cell)という。珪酸体は分解されないため、植物が枯れても長く土中に残り、プラント・オパール(plant opal)とよばれる。稲作の起源などを探るときにプラント・オパールは大きな役割を果たしている。
プラント・オパールのホームページ(佐々木章氏)
- 油体(oil body)
- 苔類の細胞に特徴的な含有物で、膜に包まれたテルペン類からなる。油体の形・色・数は種特異的で、苔類における重要な分類形質になっている。特定の細胞(含油細胞)のみが油体をもつこともあるが、ほとんどの細胞に存在する種もある。
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