被子植物では、柱頭に花粉が着生すること、つまり受粉と、配偶子(精細胞と卵細胞)が合体すること、つまり受精 (fertilization) は連続的につながっているわけではなく、その間にはギャップがある。受精するためには、花粉粒は花粉管 (pollen tube) を伸ばし、花柱を通過して子房内の胚珠 (ovule)、さらにその中の胚嚢 (embryo sac) に辿り着かなければならない。胚嚢に侵入した花粉管からは雄性配偶子である精細胞が放出され、胚嚢の卵細胞および中央細胞と合体し、受精する。 |
受粉花粉粒 (pollen grain) は当初、休眠状態にあるが、雌しべの柱頭に着生し吸水することによって急速に活性化する。吸水は数秒から数分の間に起こり、ポリソームの形成やゴルジ体の活性化と多数の小胞の生成(多くは細胞壁形成に関与)および薄いカロース壁の形成がみられる。 雌しべの柱頭 (stigma) は花粉粒が着生し、発芽する場所である。柱頭にはさまざまなタイプがあり、大きく分けると以下の2型にわけられる。
また柱頭には乳頭突起などさまざまなな表面構造がある場合が多い。 また異花柱性を示す植物では、同一種内でも花のタイプによって柱頭構造が異なる場合がある (湿性と乾性など)。 |
花粉管花粉粒は柱頭に着生すると分解酵素 (セルラーゼ、ペクチナーゼ、カレースなど) を分泌し、花粉孔の花粉壁を分解してそこから花粉管 (pollen tube) を伸ばす。これが花粉粒の発芽である。ふつう1個の花粉粒からは、1本の花粉管が伸長する。しかしAlthaeaやMalva (アオイ科) では、1個の花粉粒から多数 (10〜14本) の花粉管が生じることがある。ただしこの場合でも、ただ1本の花粉管が伸長し機能する。 成熟した花粉管は以下のようなゾーンに分けることができる。
花粉は発芽すると、ほとんどの原形質は花粉管内に移動し、残りの部分は液胞で占められるようになる。花粉管の伸長は先端成長であり、先端(先端帯)には多数の小胞が存在し、光顕下では透明な領域に見えるため帽体 (cap block) とよばれる。花粉管の伸長中には帽体が明瞭であるが、一次的に伸長が停止しているときには帽体は不明瞭になる。花粉管の成長に伴って花粉粒内や花粉管の基部は液胞で占められるようになる。帽体の後方(次先端帯)にはオルガネラが多数存在し、先端帯の小胞を生成するゴルジ体やミトコンドリア、小胞体、脂質粒などが存在する。 花粉管壁はセルロース・ペクチンからなり、特に先端部ではペクチン質に富む。セルロースミクロフィブリルは、先端付近ではランダムに配行しており、それより基部側では2方向に配列しており花粉管長軸に対してそれぞれ45度に列んでいる。花粉管壁内側にはカロースも沈着しており、特に先端部より後方に多い。花粉管が成長するにしたがって、基部側は液胞に占められるようになり、原形質は常に先端部のみに限られる。これに伴って花粉管の液胞帯の前方には、細胞壁内側にカロースがリング状に沈着し、それが求心的に成長してやがて管をふさぐカロースプラグ (callose plug) になる。カロースプラグは原形質の逆流(花粉粒側へ)を防いでいると思われる。カロースプラグは花粉管が伸長するに伴って定期的に形成され、原形質を含む先端部は一定の量に保たれる。 花粉管の発芽・生長は様々な要因に影響される。in vitroの実験では、炭水化物(糖)、ホウ素、カルシウムが重要な要因になることが知られている。 |
花粉管の伸長なぜ花粉管は正しく胚珠へ伸びるのだろうか?初期の頃には、胚珠または胎座や子房内皮、花柱が走化性物質(糖やアミノ酸)を出し、花粉管はこれに向かって伸長すると考えられていた。その後、雌しべ内でのカルシウムイオンの濃度勾配が花粉管の伸長を正しい方向に導いていると考えられたこともあった。しかし種々の実験の結果、これらの考えは否定されている。 |
胚珠への花粉管の侵入子房へ到達した花粉管は、胚珠へ侵入する。胚珠に対する花粉管の侵入経路には以下の3つのタイプがある。またヤドリギ科などでは胚嚢が伸長して胚珠を飛び出し、花柱にまで達しているが、この場合には花柱を通ってきた花粉管は直接胚嚢に達する。
胚珠へ侵入した花粉管は、いずれにしても胚嚢の珠孔側へ向かう。花粉管が珠孔側へ向かう行動は、おそらく走化性による。走化物質は、おそらく繊形装置を通じて助細胞または卵細胞から、または珠孔付近の珠皮から分泌されると思われる。珠孔受精において花粉管が珠孔付近へ屈曲する運動は、珠柄などから珠孔へ伸びる閉塞組織によっても介助される。 |