花のタイプ
Types of flowers

花の形は多種多様であり、さまざまな観点からいくつかのタイプに分けるこができる。

花被による花のタイプ

花の中には花被片 (花被)、つまり萼片 (萼)花弁 (花冠) をもつもの、もたないもの、さらに萼片と花弁が分化して全く異なる形態を示すもの、未分化で同形同大なものなどさまざまなものが見られる。

  • 有花被花 (chlamydeous flower)  花被をもつ花。
    • 両花被花 (dichlamydeous flower)  内外2輪以上の花被をもつ花。
      • 異花被花 (heterochlamydeous flower)  萼と花冠が分化している花。最もふつうに見られ、サクラ (バラ科)、タチツボスミレ (スミレ科)、シロツメクサ (マメ科)、キキョウ (キキョウ科) などがある (図1左上)。
      • 同花被花 (homochlamydeous flower)  萼と花冠が未分化な花。オニユリ (ユリ科)、ヒガンバナ (ヒガンバナ科)、ネギ (ネギ科)、ハクモクレン (モクレン科) など単子葉類や原始的被子植物に多い (図1右上)。
    • 単花被花 (monochlamydeous flower)  1輪の花被をもつ花。ふつうこの1輪の花被は萼とよばれる。カンアオイ (ウマノスズクサ科)、アケビ (アケビ科)、イヌタデ (タデ科)、クリ (ブナ科) などがある (図1左下)。
  • 無花被花 (achlamydeous flower)  花被を欠く花。ドクダミ (ドクダミ科)、ヤナギ (ヤナギ科)、トウダイグサ (トウダイグサ科) などがある (図1右下)。

このような花の構造の違いには、系統的な要因が深く関わっている。原始的な花では萼と花冠が未分化な同花被花であり、より派生的な形として萼と花冠が分化した異花被花がある場合が多い。多くの花は異花被花だが、系統群によっては内外いずれかまたは両方の花被を欠如したものもある。これには花粉媒介の方法など生態的な要因も深く関係している。

図1. 左上:ヘビイチゴ (バラ科) は異花被花. 右上:スカシユリ (ユリ科) は同化被花. 左下:カンアオイ (ウマノスズクサ科) は単花被花. 右下:ハンゲショウ (ドクダミ科) は無花被花.

花の相称性によるタイプ

花の全体的な形を見ると、対称軸が複数あるものと1つしかないもの、対称軸がないものに分けることができる。

  • 放射相称花 (actinomorphic flower) 対称軸が複数ある花 (図2左上)
  • 左右相称花 (zygomorphic flower) 対称軸が1つしかなく、左右に相称な花であり、ふつう横向きに咲く (図2右上)
  • 非相称花 (asymmetric flower) 対称軸がない花 (図2下)

花の形は原始的な状態としては放射相称であったと考えられおり、進化の過程でさまざまな系統において左右相称花への変化が起こっている。左右相称花は放射相称花にくらべて花粉媒介者 (昆虫) の選択性が高いと思われる。分類学的には、科によって放射相称花 (例 バラ科、ナデシコ科、ユリ科) か左右相称花 (例 シソ科、マメ科、ラン科) かが決まっていることが多いが、両方の花のタイプが見られる分類群 (例 キンポウゲ科) もある (図2上) 。またキク科のように1つの花序の中に両方のタイプが見られるものもある (図6)。

図2. 左上:ケキツネノボタン (キンポウゲ科) は放射相称花. 右上:エゾトリカブト (キンポウゲ科) は左右相称花. 左下:エゾシオガマ (ゴマノハグサ科) は左右相称花起源の非相称花. 右下:トモエソウ (オトギリソウ科) は放射相称花起源の非相称花.

花葉の数によるタイプ

スイレン (スイレン科) やシキミ (シキミ科) のような原始的な花では、花葉 (花被片雄しべ心皮) の数は不特定多数だが (図3左上) 、多くの花ではそれぞれ少数で決まった数になっている。ふつうこれら花葉の数は花によって基本数が決まっており、以下のように分けることができる。

  • 不特定多数 花葉の数が多数で一定しないもの (図3左上)
  • 5数性 (pentamerous)  花葉の基本数が5であるもの (図3右上)
  • 4数性 (tetramerous)  花葉の基本数が4であるもの
  • 3数性 (trimerous)  花葉の基本数が3であるもの (図3右下)
  • 2数性 (bimerous)  花葉の基本数が2であるもの (図3左下)

単子葉類の多くでは3数性 (図3右下) であり、真正双子葉類では5数性または4数性のものが多い。ただし特定の花葉 (特に心皮) がその基本数からはずれていることも多く、例えばモクレン科では花被片は3数性だが雄しべや雌しべ (心皮) は不特定多数、リンドウ科では萼片、花弁、雄しべは5個だが心皮は2個となっている。これら花葉の数は分類群によって決まっていることが多く、重要な分類形質になっている。

図3. 左上:スイレン (スイレン科) は不特定多数の花被、雄しべ、心皮をもつ. 右上:ゲンノショウコ (フウロソウ科) の花は5数性で萼片、花弁、心皮は5個、雄しべは10個. 左下:セイヨウカラシナ (アブラナ科) の花は2数性で萼片、花弁は4個、雄しべは6個、心皮は2個. 右下:ニラ (ユリ科) の花は3数性で花被片は6個、雄しべは6個、心皮は3個.

花葉の配列によるタイプ

花のパーツである花葉 (花被片雄しべ心皮) は茎の先端についているが、その配列には大きく分けてらせん配列と輪生配列がある。

らせん配列 (spiral arrangement)
花葉が軸に対してらせん状に配列しているものであり、その花は非輪生花 (acyclic flower) とよばれる (図4左)。全ての花葉がらせん配列している例はほとんどなく、モクレン属 (モクレン科) では花被片が輪生し、雄しべ・雌しべがらせん配列する。またスイレン属 (スイレン科) では萼片と雌しべは輪生し、花弁と雄しべがらせん配列している。
輪生配列 (wholed arrangement)
花葉が軸に対して輪状に配列しているものであり、その花は輪生花 (cyclic flower) とよばれる (図4右)。ほとんどの花では花葉は輪生配列する。

シキミ (シキミ科) やスイレン (スイレン科) 、モクレン (モクレン科) のような原始的な花では花葉 (の少なくとも一部) はらせん配列しているが、多くの花では花葉は輪生配列している。花葉はもともと葉に起因すると考えられており、原始的な花ではらせん状に配列 (螺生) する葉の特徴を残していると考えられている。

図4. 左:シキミ (シキミ科) の花被片と雄しべは不特定多数でらせん配列する. 右:コブシ (モクレン科) の雄しべと雌しべは不特定多数でらせん配列する.

花の性によるタイプ

  • 両性花 (bisexual flower)  雄しべ雌しべも機能的な花 (図5左上)
  • 単性花 (unisexual flower)  雄しべか雌しべのどちらか片方のみ機能している花
    • 雄花 (male flower)  雄しべのみが機能している花 (図5左下)
    • 雌花 (female flower)  雌しべのみが機能している花 (図5右下)
  • 無性花 (中性花 neutral flower) または不稔花 (sterile flower)  雄しべも雌しべも機能を失っている花 (図5右上)

被子植物の70%以上が両性花をつけるが、ブナ科やウリ科、ヤナギ科などには単性花が見られる。雄花と雌花が同じ個体につくものを雌雄同株 (monoecism)、異なる個体につくものを雌雄異株 (dioecism) とよぶ。ガクアジサイ (アジサイ科) やヤブデマリ (スイカズラ科)、ヒマワリ (キク科) などでは無性花は同じ植物の両性花にくらべて花冠が大きく、派手になっている (図5右上,図6)。これは昆虫の誘引などに役立っているものと思われ、こういう無性花は特に装飾花 (ornamental flower) とよばれる。


図6. ヒマワリ (キク科) の両性花 (筒状花) と装飾花 (舌状花) .
図5. 左上:オオヤマフスマ (ナデシコ科) の両性花. 右上:ガクアジサイ (アジサイ科) の装飾花. 左下:アオキ (ミズキ科) の雄花. 右下:アオキの雌花.

異形花柱性

同種内において、花によって雄しべ雌しべの長さが異なることを異花柱性 (異形花柱性、異形ずい性 heterostyly) とよび、そのような花を異形花柱花 (異形ずい花 heterostylous flower) とよぶ。例えばサクラソウ (サクラソウ科) やナス (ナス科) は二形花柱性 (二異花柱性 distyly) を示し、雌しべが長く雄しべが短い長花柱花 (ピン型 pin type) と雌しべが短く雄しべが長い短花柱花 (スラム型 thrum type) がある。またミソハギ (ミソハギ科) やアサザ (ミツガシワ科) では雌しべの長さに長・中・短がある三形花柱性 (三異形花柱性 tristyly) を示す。ふつう異形花柱性は自家不和合性と結びついており、有性生殖は異なる型の花の間でのみおこる。

開放花と閉鎖花

ふつう花は開花して雄しべ雌しべを外界にさらす。このような花を開放花 (chasmogamous flower) という。しかしスミレ類 (スミレ科) やミゾソバ (タデ科) 、ツリフネソウ (ツリフネソウ科) 、ホトケノザ (シソ科) 、センボンヤリ (キク科) などでは、ふつうの開放花とともに開花せずにつぼみの中で自家受粉を行う特別な花をつける (図7)。このような花を閉鎖花 (clestogamous flower) という。

図7. 左:スミレ (スミレ科) の閉鎖花. 右:ホトケノザ (シソ科) の開放花と閉鎖花 (矢頭) .

異型花

1種類の植物に2タイプ以上の花がつくられる場合、それらの花は異型花 (heteromorphic flower) とよばれる。キク科のように舌状花と筒状花をつけるもの、ウリ科のように雌雄異花で雄花と雌花をつけるもの、ガクアジサイ (アジサイ科) のように両性花と装飾花をつけるもの、サクラソウ (サクラソウ科) にように長花柱花と短花柱花をつけるもの、スミレ (スミレ科) のように開放花と閉鎖花をつけるものなどがある。

偽花

小さな花が多数集まってあたかも1つの大きな花のように見えるものを偽花 (pseudoanthium) という。偽花を構成する小さな花は小花 (floret) とよばれる。偽花では個々の小花ではなく、他の要素や一部の小花が装飾の役割を担っていることがある。例えばドクダミ (ドクダミ科) やハナミズキ (ミズキ科) では花序の基部の総苞片が大きく花弁状になる (図8上) 。またガクアジサイ (アジサイ科) では周縁部の花の萼片が大きく (図8左下) 、ヤブデマリ (スイカズラ科) やキク科、マツムシソウ科などでは周縁の花の花弁が大きい (図8右下)。このような装飾用の小花はしばしば生殖能を失っており、装飾花とよばれる。

図8. さまざまな偽花. 左上:ドクダミ (ドクダミ科) . 右上:ハナミズキ (ミズキ科) . 左下:ガクアジサイ (アジサイ科) . 右下:ユウガギク (キク科) .