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細胞外被 Cell covering

陸上植物の細胞がセルロースを主成分とする細胞壁に包まれていることは,よく知られています。しかし,これはすべての藻類にあてはまるものではありません。それどころか,緑藻を含めて,大部分の藻類は異なる種類の外被をもっています。藻類では,細胞を外界から仕切るしくみが多様化しています。

珪藻類の
珪酸質の外被
ハプト藻円石藻類の石灰質の外被 渦鞭毛藻の
セルロースの外被
ユーグレナ類の
タンパク質と鉄・マンガンの外被



分類群が異なると藻類の細胞を包む構造は著しく異なります。簡単に整理してみるとつぎのようになります。

外被は細胞膜の外にある 有機質からなる
non-mineralized
(organic)
細胞壁を
つくる
緑色植物,褐藻,紅藻,黄緑色藻など
構成成分はさまざま
開いた容器
(ロリカ)
をつくる
黄金色藻,ユーグレナ藻など。成分はさまざま。
鱗片 プラシノ藻,ハプト藻,その他多くの分類群に存在。
形態は互いに異なる。
鉱物化している
minenalized
主成分は
珪酸
珪藻,シヌラ藻,パルマ藻
形態は異なる。
主成分は
炭酸カルシウム
ハプト藻(細胞内石灰化)
緑色植物,褐藻,紅藻の一部では細胞壁の上に石灰が沈着する(細胞外石灰化)
主成分は
鉄・マンガン
ユーグレナ藻類の一部
外被は細胞膜の内側で裏打ち構造 ペリクル(タンパク質のリボン) ユーグレナ藻
アンフィエスマ
(小胞中のセルロースのプレート)
渦鞭毛藻
外被は細胞膜の内側と外側から挟み込む構造 ペリプラスト クリプト藻


ガラス(珪酸質 SiO2)の細胞外被

珪酸 (SiO2)を主成分とする細胞外被をもつ生物の代表は珪藻です。珪藻は海洋,沿岸,陸水だけでなく,土壌や樹皮などの表面にも生息する藻類です。単細胞の藻類のなかでは現在最も反映しているグループです。珪酸の外被は精巧な模様をもっており,その形態で分類が行われています。珪酸殻は細胞内部の珪酸を沈着する小胞 (silica depositing vesicle)の中でつくられます。珪藻綱

そのほか,珪酸の被殻は黄金色藻綱のなかのシヌラ目 (Synurales)でみられます。SynuraMallomonasなどの属では珪酸でできた鱗片で細胞が覆われています。この仲間は鞭毛装置や色素組成,細胞内のオルガネラ配置の違いにもとづいて,シヌラ藻綱 (Synurohyceae)として扱われることもあります。黄金色藻綱にはそのほか,Paraphysomonasなど,珪酸質の鱗片をもつ仲間が知られています。

パルマ目は現在でも系統上の位置や所属が明らかでないなかまです。これらは盾(ギリシャ語でparma)のような形の珪酸質の構造をつくり,細胞表面に配置しています。

ガラスの細胞外被 Silicious cell covering
珪藻 (diatoms) シヌラ藻 (sinurophytes) パルマ目 (Parmales)
ガラスでできた上下二個の容器と間を埋める帯核に細胞が包まれている 細胞は属や種によって形態の異なるガラスの鱗片に包まれている ガラスでできた盾状の構造をつくり,球状に並び,そのなかに細胞が収まっている


石灰(=炭酸カルシウム (CaCO3))の細胞外被

細胞外の石灰化

いろいろな藻類が細胞の表面に石灰を沈着します。よく目立つところでは,紅藻のサンゴ藻類,褐藻のウミウチワの仲間,緑色藻類ではカサノリやハゴロモ(アオサ藻綱),シャジクモ(シャジクモ藻綱)など多数の藻類で知られています。
これらの藻類では,光合成などにより細胞表面のpHが上がることにより,海水中のカルシウムイオンが炭酸と結びついて石灰をつくります。つまり,石灰化は細胞外で進行します。

石灰の細胞外被
紅藻 褐藻 緑色藻

細胞内の石灰化:円石藻類 (coccolithophorids)

しかし,微細藻類のハプト藻(ハプト植物門)には,細胞内で石灰化を行う仲間が知られています。円石藻 (coccolithophorids)とよばれる仲間です。ゴルジ体や特別に分化した細胞内の小胞のなかで石灰が沈着して,属や種に特有の形態の丸い石灰質の構造(それで円石とよばれる)をつくられます。円石は完成した後で細胞の外に放出され,細胞表面に配置されます。円石藻の石灰化は細胞内で進行する点で他の生物の石灰化とは大きく異なっています。すべての円石藻は単細胞生物です。円石はしばしば細胞本体より大きなものです。下の写真はすべて単細胞で,細胞は円石がつくる容器の中心に収まっています。

円石藻のいろいろ
Emiliania Gephyrocapsa Discosphaera Rhabdosphaera Umbellosphaera


鉄・マンガンを含む外被構造:ユーグレナ植物のロリカ

ユーグレナ植物のなかには,細胞外に壷状の容器をつくるものが知られています。Trachelomonasがそれで,この容器をロリカとよびます。 Trachelomonasのロリカは主成分として鉄とマンガンを含んでおり,その量は,多い場合にはロリカ全体の60%にも達します。

ユーグレナ藻類のEuglenaPhacusの一部はペリクルの上に鉄,マンガンを沈着しています。


有機質の鱗片

有機質の鱗片:プラシノ藻

ゴルジ体で形成された鱗片が細胞本体と鞭毛の表面に配置されている。鱗片は細胞本体で,多い場合4種類,鞭毛上では5種類の形態のものがみられる(一部は毛状鱗片 hair scales)。

Nephroselmis属でみられる星状鱗片 Mesostigma属の細胞。大型の鱗片に覆われる。

有機質の鱗片:ハプト藻



細胞を内側から補強する構造

ペリクル:ユーグレナ類の細胞外被

アンフィエスマ:渦鞭毛藻類の細胞外被