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ワレカラの形態進化の謎を解く


 ワレカラ(端脚目ワレカラ亜目)(Figure 1)は,カマキリやナナフシのような細長い体型をしていますが,エビやカニなどの甲殻類の仲間で す.


Figure 1. ワレカラの代表種.
(A)トゲワレカラ Caprella scaura(B)スベスベワレカラ Caprella glabra


通常,甲殻類の体は頭部・胸部・腹部に分けられます.しかしワレカラでは,腹部が退化し痕跡的な形状をとどめるのみになっています(Figure 2A).また甲殻類の胸部は一般的に7対の胸脚(歩脚) を備えていますが,ワレカラではこのうち第3-4胸脚が退化しています(Figure 2A).このような極端に退化的な特徴を持つ甲殻類は他に例がありません.

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Figure 2. ワレカラとヨコエビ(ワレカラの側系統群)の形態の比較.
(A)コミナトワレカラ Caprella kominatoensis. 数字は胸節の番号を表す.ワレカラには第7胸節より後ろに体節が見られない.また第3-4胸節に付属肢はなく,葉状の鰓(矢印)のみがある.Bar=20mm(B)モズクヨコエビ科の一種 Hyalidae sp.. すべての胸節が付属肢を備え,第7胸節より後ろには腹部体節がある.Bar=10mm.


さらにおもしろいことに,同じワレカラなのに上記の特徴が当てはまらない仲間があります.例えばヨコエビワレカラ科には明確な腹部体節があり(Figure 3A),一方でムカシワレカラ科には発達した第 3-4胸脚が見られます(Figure 3B).つまり単一系統内に相反する形態的特徴を示すグループが混在しており,ワレカラの系統の中で収斂進化か先祖返りが生じた可能性が考えられます.

Figure 3.
(A)ヨコエビワレカラ Caprogammarus gurjanovae. 矢尻は第7胸節と腹部体節との境目を表し,腹部には糸状の腹部付属肢(遊泳脚)が見られる.Bar=20mm(B)ムカシワレカラ Protomima imitatrix. 矢印は第3-4胸脚を示す.Bar=20mm.


このようにワレカラは形態進化を研究するうえでとても興味深い生物です.どのようにして胸脚や腹部体節が退化し,また何故あるグループではこれらが保持されているのかを知ることで,甲殻類が多様 な形態を進化させたメカニズムの一端に迫ることができるでしょう.

これまでに我々は分子系統解析によりワレカラ亜目の系統関係を,また胚の形態観察により付属肢や体節の形成過程の概要を明らかにしました.今後はこれらに加えて分子発生学の手法を用い,ワレ カラの形態進化を遺伝子レベルで解明してゆく予定です.


原著論文
A. Ito, H. Wada, and M. N. Aoki Phylogenetic Analysis of Caprellid and Corophioid Amphipods (Crustacea) Based on the 18S rRNA Gene, With Special Emphasis on the Phylogenetic Position of Phtisicidae Biol. Bull., April 1, 2008; 214(2): 176 - 183.