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酸素発生型光合成と藻類
進化の過程で光合成が発明されてからしばらくのあいだ(もちろん地質学的時間で),炭酸同化のための電子の供与体は水素や硫化水素あるいはある種の有機化合物であったと考えられています。そして現存の光合成細菌はその当時の光合成の姿を今に残している生物と考えられています。やがて,原核光合成生物の中に,地球上に無尽蔵に存在していた水を電子供与体として利用する生物が現れました。藍藻(ラン藻)や原核緑藻などがそれです。
ここで光合成細菌の光合成と藍藻の光合成の比較をしてみましょう。
光合成細菌の光化学系
光合成細菌は光合成色素としてバクテオクロロフィルをもち,硫化水素や硫黄などを電子の供与体として用いています。これらの化合物は酸化還元電位が比較的高く,一つの光化学系で充分な励起が可能です。しかし,硫化水素や硫黄などの物質が存在する場所は火山や限られているために,生息域が限られています。
光合成細菌はCO2を炭素源,H2Sや各種の有機物を水素の供与体として用いて光合成を行い,
紅色硫黄細菌,緑色硫黄細菌では
CO2+2H2S---> [CH2O]+H2O+2S
緑色硫黄細菌では
CO2+2H2---> [CH2O]+H2O
のように同化を行います。次の藍藻や「植物」のようにH2Oを水素と電子の供与体として使用することはありません。
藍藻の光化学系
これに対して,藍藻や真核藻類そして陸上の植物は,地球上のあらゆるところに存在する水を電子供与体として利用することで生息域を地球の全土に広げています。水のエネルギーのレベルは低く,充分な還元力を得るために2つの光化学系を利用しています。図は光化学系Iと光化学系IIの模式図でZスキームの名前で呼ばれています。光化学系IIで水が分解されて電子が取り出され,光エネルギーによって励起されて電子伝達系を流れていきます。その過程でATPが生産されます。
地球大気と酸素発生型光合成の歴史
現在の地球大気に含まれる酸素はこのような酸素発生型光合成生物によって形成された
ものです。図から藍藻を含む藻類が地球大気の形成に果たした役割が理解できるでしょう。
地球の歴史の中で藻類が占めている位置を分かりやすくするために,生命の歴史を1年歴に表してみると図のようになります。
われわれは生物の中心は動植物であると考えがちですが,時間軸でみると,陸上の動植物の歴史は生命の歴史のわずか13%にすぎません。これに対して
原核の藻類は30億年の歴史をもち,生命の歴史の8割近い時間を占めています。原核緑藻の発見以来,原核藻類の多様性に目が向けられつつありますが,30億年の歴史をもつこれらの生物は,現在わかっているよりもはるかに複雑な構成をもっているものと考えられます。今後原核生物の研究が進むにつれて,藍藻というまとまりでは理解できない原核藻類の全貌が明らかになってくるものと思われます。原核藻類の研究は始まったばかりといえます。
真核藻類の歴史は真核生物の発生とほぼ同じ時代までさかのぼることができます。これは生命の歴史のほぼ半分にあたります。真核生物は約15-18億年前に出現し,それらの多くの系統でさまざまな光合成生物が出現して現在の藻類の多様な仲間が形成されてきたと考えられています。左の図はMcFaddenらによる18SrDNAの系統樹です。